忍若

□こどもの扱い方
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「侑士の嫌いなタイプ?」「ええ、できる限り具体的に」

 岳人は頭の後ろで腕を組むと、コロンと後ろに倒れ、寝転んだ。

「そういや、前にあからさまに言い寄ってくる女と口説きがいのない女はすきやない、とか言ってたな」
「おお、向日さんにしては的確なアドレスですね、ありがとうございます」

 若はいつものように皮肉をたっぷりいりまぜて礼をのべた。

「お前、ほんっとに可愛くねぇな」

 岳人ももう慣れっこで、軽くひとにらみしただかけで、そんなこと聞いてどうするんだよ、と草笛を吹き出した。

「子供には関係ありませんよ」

 若はそういってむしり取った青葉を岳人の顔に向かって振り掛けて、かけだした。

「馬鹿、子供はどっちだっつーの」


 若が岳人にこんなことを聞くのには理由がある。
 入学当初は鼻にもかけてくれなかった忍足が、近頃よく絡んでくるのである。
 たしか1年生が全員、忍足にボレーの練習を受けてもらっていたときだった。
 負けん気の強い若は氷帝の天才と異名をもつ忍足に対して、挑戦的な打球を討ち放った。
 それでも忍足は顔色ひとつ変えずに、若にとってはきちんとボレーとして打ち返しやすい玉として返してきた。
 ほら、うちごろやで、とネットの向こう側から聞こえる関西弁に舌打ちしたのを覚えている。
 それからというものどういう訳か忍足は若にちょっかいをかけてくる。
 どちらかといえば一人でいることを好む若にとって、目障りな存在だった。

「あっちいってくださいよ、アンタ向日さんのパートナーですよね、向日さんは向こうですけど、」

 苛立ちを隠そうとしないない若さを幼いとからかうように、猫が逆毛立てとるみたいやな、と背中合わせに腰を降ろされた時には、むしゃくしゃして若のほうが立ち上がった。

「はいはい、にげんでよろしい、とってくったりせんし」
「逃げてないですよ、うっとおしいから、離れるんです」

 先輩にはもうちょっと口のきき方気をつけな、スポーツマンシップに違反しとるで、と余裕満点の作り笑いが、ポーカーフェイスファイターとも言われる由縁なのか、何にせよ、若の不快指数は絶頂に登り詰めようとしていた。

 しかしその日を境に忍足は若に構わなくなった。
 今まで何度冷たくあしらっても、困ったような笑みを浮かべるばかりで、若のきつい物言いにも眉ひとつ動かさなかったのに。

(押して駄目なら引いてみる、という訳か)

 若は人の悪い顔つきをして、忍足の興味関心をそのまま他所へむけてしまう作戦を考えようとしたのである。


「忍足さん」

 忍足は表しぬけしたような顔で、どないしたん、自分のほうから寄ってくるなんか、と若の長い前髪に手を差し込み、額を触った。
 反射的に若はその手を振り払ってしまったものの、内心失敗した、と舌打ちしていた。
 今、若は従順でなければいけないのだ。

「相談したいことがあるんで、今日、忍足さん家に行ってもいいですか」
「ええけど、どっか悪いん、」

 馬鹿にされている、とかちんときたが、治療を受けたいんじゃなくて、アンタに相談があるんですよ、と横を向いた。
 でなければ、目は口ほどにものをいうと言う。
 若は自分の目がまさにそういう目だとよく知っていた。
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