蓮仁蓮

□裏山の妖狐退治
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 霊験を身につけるべく奥深い山中へと修行に入っていった山伏、柳蓮二は、日も傾きかけたころ、小さな農村にたどり着いた。
 何処かの軒下をお借りして、歩き疲れた体を休ませてもらおうと、きょろきょろとあたりを見回していると、背後からイタヅラを叱られ逃亡中の、この村随一のやんちゃ少年赤也がぶつかってきた。

 「少年、大丈夫か、」

 赤也は謝るどころか、あかんべ、と悪態をついて逃げていってしまい、追いかけてきた丸井・ジャッカルも息をきらして、すばしっこい野郎だぜぃ、と一先ず足を止めた。

「孤児なんだ。多めにみてやってよ」
「子供はあれ位元気があたほうがいい」

 丸井は懐深い蓮二をいたく気に入り、ウチにとまってきなよ、と、蓮二をジャッカルのうちに招き入れた。

「修行中なんだろ、しっかり養生していけよな」
「なんでお前が家主面してんだよ…」

 施しを受けながら、旅の話などしていると、御免、と建て付けの悪い引き戸をガタリと音を立てて、村長である幸村がお供の柳生と玄関口に入って来た。

「お客人、貴殿に頼みたいことがある、」

 二人の訪問を堺に、和気あいあいとした雰囲気は、一気に神妙な空気へと変わって行った。
 蓮二はこれは何かあるな、と悟ったものの、聞こう、と幸村たちを座敷にあげてもらった。

「裏山に、少し困った奴がいてね、懲らしめてほしい」

 そう言って差し出されたお茶をひとすすりした幸村は、蓮二に事情を説明し始めた。
 丸井やジャッカルも口を閉ざしたきり、蓮二を見つめていて、蓮二は崩していた足をきちんと組み直した。

 幸村の話によると、裏山を根城に妖狐仁王という九尾の狐が、仁王像に化けて行き交う人を脅かしすなどするために、裏山からの道が通り抜けできなくなってしまい、近隣の村への行き来が滞り、困っているという。

(九尾か…)

 蓮二は修行がどの程度身についているか確かめるよい機会でもあるし、一宿一飯のお礼もある、そう思い、俺にできることがあるなら力を貸そう、と妖怪物退治を引き受けた。

「では、村一番の剣の達人真田をお供にと紹介しよう」

 明日の朝、裏山への入口で、と約束を交わすと、幸村と柳生は引き返していった。
 丸井の話によれば、真田は過去に何度か仁王に挑んでいて 、その度に仁王の妖術で上手く化かされてしまい、退治はいつも失敗に終わっていたという。
 一筋縄ではいかん相手かもしれないな、と、蓮二は下準備をこなしていった。


 翌朝、待ち合わせ場所へ案内されると、そこにはすでに柳生と真田が待っていた。

「柳蓮二だ、道中よろしく頼む」
「うむ、真田弦一郎だ。幸村から話は聞いている、力になってくれ」

 真田は気持ち良く握手をしてくれたが、何か気になったことがあるらしく、怪訝な顔をした。

「このような細い腕であの妖狐が倒せるのか、」

蓮二はくすりと笑うと、お前が狐にかてない理由を教えてやろう、と杓丈で地面をとんと突いた。
 あっというまに真田の足元は崩れ、まるで落とし穴にでも転げ落ちたかのように腰までスッポリ埋もれてしまった。

「妖術を操る狐に真正面から挑んだ所で到底及ぶことはあるまい、」

 真田は奇っ怪な術を使いおって、卑怯な…と赤面すると、柳生を早く手をかさんか、と呼び寄せよじあがりました。
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