いいわけ
□いいわけ ー其の七ー
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朝が来た。
それは、匂いだった。
朝の匂いがする。
しんとした深まった秋の空気が、日に照らされて、僅かに柔らかくなる気配。
思い切り息を吸うと何故か枯れている喉か痛い。
目を開くと、見慣れない天井があった。
上半身を起こし、うんと伸びをする。
何故か、綺麗な色の浴衣みたいなものを着てるし。
しかも、なんだか体中が痛い。見ると手首にぐるっと擦り傷のようなものがある。
「いったいなー?…なんだっけか」
あ、合宿始まってたんだっけ。
見慣れない、天井が高めの和室。
ちょっと高級そうな部屋。
「入るぞ」
形だけの断りに重ねて襖が開いた。
「…起きたのか」
前髪を垂らした、着物の男の人が、布団を引いたままの乙女の部屋にずかずかと入ってくる。
「ちょ!なん!なんですか!」
「…元気そうだな。丸一日以上眠ったままだったんだぞ」
あれ、そう言えばカナコと分かれてキーホルダー探しに行った後…どうして宿までこれたんだっけ。
「…あのー、昨日は」
「昨日はずっと目を覚まさなかった。一昨日だ。坂本くんと中岡くんがここまで運んでくれたんだ。…とても心配していた」
噛みしめるように、じっくりと話す人だなぁと思った。
「えっと、中岡さんと坂本さん…ですか?」
「…小娘…何を言っている」
「あれ、あー寝ぼけてるのかな、旅館の方ですか」
「麻百合」
「え?」
「お前、まさか…本当に私が分からないのか」
「……………………え?」
え???
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