いいわけ

□いいわけ ー其の伍ー
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薩摩藩邸の中庭のど真ん中に中座する紅葉が、真っ赤に染まって…その美しさを鮮やかに主張していた。




私は昼餉の後に久しぶりに、中庭の掃き掃除をさせてもらっている。



抵抗するお松さんから、この庭だけだからと箒を奪ったのだ。ちゃんと−大久保さんにも許可を貰った。一昨日やっと、お匙から大丈夫というお墨付きを貰ったのだ。



「まぁ可愛い」



落ちている小さな紅葉を拾って、空に掲げ眺めてから胸に閉まった。





秋が訪れて、私はー18歳になった。




回復は ― 思ったよりも随分早かった。
切り傷自体はそんなに深いものでは無かったから、それが癒えるのに時間は掛からなかった。元々剣道で鍛えている身体が良かったのか、薬や、発熱に対する体力もあった。




ただ、傷跡はわりとはっきり残ったままだった。私はそれをあまり悲しいとは思わなかった。今も胸の間から、胃の上辺りまで綺麗にまっすぐと傷が蚯蚓腫れのように付いたままだった。


服を―着物を脱がなければ、分かることはない。




身体や傷があらかた癒えてからも、私はなかなか部屋からも建物の中からも出しては貰えなかった。



それはたぶん、自業自得なのだろう。





俯き、総司の顔を思い出し、はぁと息をつく。



『新撰組―かぁ』








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