いいわけ
□いいわけ ー其の参ー
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それから、麻百合は日中、毎日外に出掛けるようになった。
朝餉から昼餉までは藩邸の掃除をするのは変わりなかったが、午後になると、決まって「探し物をしてきます」といなくなるのだった。そして毎日のように、夕餉の支度時に帰り、夜は早い刻限に眠りに着いた。
それは麻百合にとってもありがたいことでもあった。
元来体を動かすのは好きだったから、心が病みそうなときは忙しなく動いている方が救われる。
「…近ごろ、ここへ来ても麻百合に会えんのう」
薩摩藩邸からの帰り…龍馬はさもつまらなさそうにそう呟いた。
龍馬の隣で、慎太郎も深く頷く。
「なんか…姉さんの笑顔を見ないと力が湧かないッスねー」
龍馬も「全くだ」と頷く。
以蔵は、それを後ろで聞きながら、「昨日、麻百合を河原町で見かけたがな」と呟いた。
「河原町?また随分遠いですね」
慎太郎は驚いて振り向いた。
「何か探しているようだったぞ。龍馬」
以蔵の言葉を聞いて龍馬の足がゆっくり止まる。
「祇園の近くには寺も多いですからね…」
慎太郎がそう呟く。
端にもかからないような下らぬ顔をした龍馬ー少なくとも以蔵にはそう見えたーに大声が飛んで来る。
「お前はあいつがこのまま帰ってしまっていいのか!!」
「いいわけないぜよ!!」
龍馬はすっくと背を伸ばして以蔵を見た。
「決して卑屈になっちょるわけじゃないがよ…ただ…止めることはワシには出来ん…」
「なんでだ…」
以蔵の声は熱を帯びる。
「麻百合が、ここに残る理由があるとしたら、それはワシではのうて…」
「だからって、行って欲しくないと思っていることは、嘘じゃないだろう」
以蔵、わかっちょる。
ワシは面と向かって帰ると言われるのが
怖いんじゃ−。
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