いいわけ
□いいわけ ー其の八ー
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広い空間に、俺と麻百合の二人になる。
障子の明り取りは開けて。晴れているから部屋は明るい。
こぽこぽと、麻百合が茶を淹れてくれていた。
「どうぞ」
「ああ」
「今日は寒いですね」
「ああ」
そういうと麻百合はじっと庭を見て、押し黙った。
「お前は…もうその…見つかった寺には行ったのか」
「え、ああ…まぁ神社だったんですけどね」
「お前らしいな」
くすりと麻百合が笑う。
寂しそうに、笑う。
「昨日、もう行って来たよ…そんな…急かさなくてもいいのにね」
「早く帰りたいんじゃないか」
「ん…そうだね」
歯切れの悪い麻百合に、俺は自分がどうしていいか分からなくなる。
そして、俺の中で、一つの疑問が浮かぶ。
「いつ、帰るんだ」
麻百合は目を開いて俺に向き直る。
「まだ、帰れるかどうかも分からないのに…以蔵まで、私にそんなに帰って欲しいの」
「それは…」
以蔵、まで…?
「大久保さんに何か言われたのか」
「あの人は、何も言わないよ」
目を伏せて顔を逸らした麻百合から、雫が落ちていく。
「ここより、お前の居た場所の方が安全だろうからな」
慌てて麻百合の肩を摩ってやる。
「…明後日。…明日は何か大切な用事があるからと。明後日にはも一度あの場所に行って、帰れるか試してみることになってる…の」
顔を伏せた麻百合は肩を震わせながら泣いていた。
「お前…何故泣く?」
顔を上げた麻百合の目からは大粒の涙が後から後から流れていた。
「みん…なわたし…に…」
「お前、思い出したのか」
「…………以蔵ぉ」
泣きじゃくる麻百合を思わず抱きしめた。
唐突に、理解をする。
きっと思い出したことも、つらいことも何もかも飲み込んだまま、忘れた振りをして、帰る気で居るのだろうと。
声を殺して泣く麻百合に、俺は何を言っても悲しませるような気がして、ただ背中を摩ることしか出来なかった。
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