いいわけ
□いいわけ ー其の八ー
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「こんにちは、武市さん、以蔵さん」
何故か、麻百合は俺だけ下の名前で呼ぶ。
…他意はないのだろう。
慎ちゃん慎ちゃんと呼んでいたのに中岡さんになったと、慎太は酷くがっかりしていたから、俺が以蔵と呼ばれていることに対して、龍馬と慎太は怒っていた。
「今日は冷えますね」
広間まで案内してくれる麻百合と先生が話しながら笑いあっている。
「麻百合さんは、もう帰る心積もりが出来てしまったのかな」
「!……えっと…」
にっこりと笑う先生から目を逸らす麻百合は、困ったような顔をしながら、それでも「はい」と返事をした。
「武市くん」
ふと、後ろから大久保さんの声がした。
俺は脇に一歩下がり、大久保さんに礼をした。
「先に、こちらに来てくれないか。もう桂くんが来ているのだが」
険しい顔をした大久保さんの様子を見て、俺は武市先生からも一歩下がった。
「悪いな、岡田くんは小娘と先に広間で待っていてくれないか」
「はい」
返事をした俺を促すように、麻百合はくるりと後ろを向いて歩き始めた。
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