いいわけ

□いいわけ ー其の八ー
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「また雪か…」



見上げれば、うす曇の空から白いものが舞い落ちてきた。



「麻百合さんに会うのは久しぶりだね」



「あ、はい」



後ろを歩く先生が、ぽつりあいつの名前を吐いた。




あいつに会うのは、元旦の宴会以来だったが、その時はろくに言葉を交わせないまま俺は長州藩邸に向かったから、もう随分話をしていない気がした。



最近は、新撰組の動きが盛んで、俺達はもう表立って往来を歩くことはままならなかった。



あいつらは、強い。



隊長クラスになると、一対一の対峙でも危ない。



俺は、武市先生を守る。命に代えても。



でもそれは、現実的にいつ何時でもと言えるほど容易いことではなくなっていた。



細心の注意を払わなくてはならない。



武市先生も、龍馬も、慎太も。そして、俺も。



剣を交え、その強さを味わうほど、俺は奴らが、沖田が、麻百合にしたことを信じられなくなっていた。



でももう、真実を問うことも叶わないのだろう。




昨日、長州藩邸から帰ってきた龍馬が、俺たちに言った。




『見つかったようじゃ…麻百合が言っておった、寺』



正確には神社だったらしい。



それがあったということは、もしかすると帰れる可能性があるということで。



そして今のあいつは迷いもせずに、ここを去る決意をするだろうと思った。



それが幸せなのか、俺には分からなかったがそのほうが安全なのは誰の目にも明らかだ。




記憶が戻る確証も、ない。




「以蔵、行くぞ」




「あ、はい、すみません」




空を見上げて立ち止まる俺に、先生が先を促してくれた。



そうだ。俺達は前へ進まねばならない。




あいつは、帰るべきなんだ。





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