お題

□ごめん、アイシテル
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小さな音を立てて開いたドアから、言葉短に現れた青年。銀糸のような髪、そこから覗く浅紫色の瞳。それは彼が彼だという証。彼がここにいるのだという確かな自覚に、意識せずとも笑みは零れた。

「こんにちは、協会長さん」

小さく、けれどはっきり彼の耳に届くように、そうつぶやいた。その言葉が癪に触ったのか、彼の眉間にしわがよる。その反応に思わず彼女は、小さく声を出して笑ってしまった。その音すらも拾ったのか、訝しげに彼はこちらに顔を向けた。

「何がおかしい」

「別に、相変わらずなんだなと思って」

「…」

静寂が辺りを支配する。まるでここだけ時間が止まってしまったような感覚だった。このまま時間が進まなければいい。そんな甘美な夢想も浮かぶ。そうすればきっと同じ世界に二人だけでいられるだろうけれど、時間は無情にも進んで行く。当たり前だ。世界は回っているのだから。沈黙を先に破ったのは彼だった。椅子を引きずるようにして持ち、ベッドの近くまで持ってくると、そこに静かに腰を掛ける。けれど、目線は床に向けられ、彼女のそれと交わることはなかった。

「ねえ、零」

「…なんだ」

「こっちみてよ」

「…」

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