SSS

□Buona vacanza!
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君の望みは。




『Buona vacanza!』




「オフがほしい」

唐突に、ジョットは言い出した。

「休みって、ジョット。商店じゃないんだから」
「休まる暇もないじゃないか、みんな。休暇制度を作る。検討してくれ」
「俺たちはみんなボスに命預けているんだ。休みなんて必要ねぇ」
「俺が必要なんだ。だから付き合え」


(出た、ジョットのわがままが)


一度言い出したら、説得しようがなだめようが、聞く耳持たないことを、Gは良く知っていた。うなだれたGは、隣の雨月に、助けを求めるように目を向けた。

「…良いのではないか。働きすぎは身体に良くないでござる」

(裏目に出た、この平和ボケ野郎が…)

「う〜ん、マフィアのボスとしては、非常に軟弱な発想ですねぇ。いっそ、ボンゴレは引退して、別の商売でも始めてはいかがですか」

(止める気ねーな、スペード…)

「…」

(だよなアラウディ、興味なしだろ)

ナックル、ランポウは任務以外はほとんど本業勤務だからな、つまりはずっと『休み』だし、聞くまでもない、話にならない。


もっと真面目に考えてくれ。何で俺ばかり疲れきってるんだよっ。

「そりゃあ、幼馴染みだし。右腕ですしねぇ」
「…さりげなく人の考え読んでんじゃねぇ、スペード」
「…というか、顔に出てるでござるよ」
「雨月っ、てめぇ」
「うるさいよ、君たち」

今まで黙っていたアラウディが、我慢の限界に達したようで、突如キレた。

これには浮き足立っていたジョットもビクリと反応し、恐る恐る声の主を横目で見る。

「くだらないことでがたがた騒がないでくれる?休みが欲しいなら勝手にすれば」
「そ、そうだよな、アラウディ」
「てめぇ勝手にっ…」
「わめかないでよ。見張りがいればいいんだろ、じゃあ今回は僕がやる」

Gは耳を疑う。
なんだって?アラウディが、面倒をかって出た?

「いや別に、見張りなんて要らないんだけど…」
「守護する側の気持ちも考えなよ。最悪君がやられた場合、守護者が無能だということにされるだろ。僕のプライドにかけて、そんな不名誉な事態は許さないよ」

ごもっとも…。
アラウディの迫力に、ジョットはしゅんとする。

「で、確認しておきたいんだけど、君が言うところの『オフ』っていうのは、何をすることを指すわけ?」
「えっと、ちゃんと考えてなかったけれど、やりたいことはたくさんある。外へ出てゆっくりエスプレッソでも飲みながら読書したり、とにかく仕事を忘れること、につきる」
「ボスであることを忘れたいわけだね」
「たまには、だ」
「くだらない…、けれど、それで執務に身を入れてくれるのであれば、協力しないでもない」

アラウディは、Gをちらりと見る。

「ということだろ、保護者としては」
「…ま、まぁ、それなら。ただしジョット、単独行動は厳禁だ」

それじゃあまり意味がない、とは思ったが、ここで異論を唱えると、休暇自体なかったことにされかねない。ジョットは渋々頷いた。

「わかった、そのかわり、目立ちたくないから、見張るなら本当にさりげなくしてくれ。お前たちみたいな派手な面々が近くにいると余計目立つからな」

…お前が一番派手だから困ってるんだよ、と誰しもが思っていた。


「ではジョット、オフの1日は、僕の指示にしたがってもらうから」
「え?」
「なにか文句ある?」
「…いや…ない…です」

アラウディの切れ長の瞳がキラリと光る。

(なにか嫌な予感が…)








………………………………………


そしてオフ日。



「で、これはどういうこと」

ジョットは愕然とする。

「何か?」
「だからこの状況…」
「ご希望通り目立たないでしょ」

ジョットは、顔を真っ赤にしてアラウディに詰め寄る。マフィアのボスということでは目立ってない、でも普通に目立ってないか。

「似合ってるよ、その格好。普通に恋人同士に見える」

白い長めのシルクカシミアニットにツイードのショートパンツ、足元はスエードのロングブーツ、淡いパープルピンクのストール。

「女装するなんて聞いてないっ」
「君の条件をすべてクリアした方法じゃないか。ほらもっと密着して」
「あっ…」
「こうすれば自然に護れる」
「そ、そんなぁ」

アラウディに肩を引き寄せられ、完全密着状態のジョットは思った。
あ、遊ばれてないか?


アラウディはといえば、自分の望みを実現させた上に、予想外の出来映えに、満足していた。これは、開発のしがいがあるかもしれない。

「ジョット、これから週休二日制にしたら」
「毎回これ?」
「いいじゃない、似合ってるし。誰も気がつかないよ。君がマフィアのボスだなんて」
「気がつかれちゃ困る。いい恥さらしだぁー」
「じゃあ気がつかれないように、恋人らしくしよう」

顔をさらに真っ赤に恥じらうジョットを、アラウディはかわいいと思った。こんな時間外勤務ならありだな。

「さ、お茶しにいこう」


(オフなのに、癒されてない、よな)


されるがままのジョットは、もう休暇がほしいなんて言うまいと、心に誓うのであった。




…その頃、ボンゴレ守護者たちは。




「アラウディのやつ、うまいことやりやがって、次は俺だっ」

スペード
「う〜ん、流されすぎじゃないですか。やっぱり、きついお仕置きをしないといけませんかねぇ。くふふっ」




各々の胸の内に、密かな決意が芽生えたのであった…



ジョットの苦難は続く。






end








※『Buona vacanza!』→(ブォナ ヴァカンツァ) 良い休暇を。

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