Novel-Ι

□未来のあしたへ
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この気持ちが永遠に続くといい。




『未来のあしたへ』







ボンゴレデーチモはまだ幼い子供だった。はじめてその存在を認識したとき、ジョットは継承の試練を乗り越えることができないだろうと、少なからず思っていた。幾多の候補者の挫折を見てきた悠久の時間を経て、現れた希望の星が年端もいかない子供だとは。驚きと共に、未成熟な候補者が試練を受けざるを得なくなったという状況に、危機感を覚えたものだった。



「まったく、どうしたものか」
「どうかしたのか」
「G…」


気がつけば、Gが隣で微笑んでいる。嵐の守護者で幼馴染みでもあるGは、こうしていつも俺の側にいて、気遣っていてくれる。



「おまえも感じているだろう。デーチモは…」
「あぁ、お前にそっくりだな」



突発的なところといい、感情的なところといい、Gにしか知り得ないプリーモの本質的な部分に、デーチモは重なるところを持っている。ボンゴレの組成前、街で自警団と自称してふたりで駆け回っていた頃、まだジョットがプリーモと呼ばれていない頃の、あの若く荒々しい時代の自分達の姿を重ねる。



こうしてリングの意思として在る今、これからのボンゴレの未来を見守ることしかできないが。



「不思議だな、ボンゴレを壊すと言ったデーチモが、俺の意思を本当の意味で継承できるとわかってしまうなんて」

「デーチモも、きっと仲間のためにうんと悩むんだろうな」

「俺はそんなにうじうじしていたか」



知ってるよ、お前が組織のために決断を下すとき、あらゆる方面から仲間や民衆に血が流れない最善の方法を常に探して、寝る間も惜しんで考え悩んでいたことを。
きっと気がついてはいないんだろうが、守護者は皆、そんなお前の影の努力を知っている。知っているからこそ、ボスの下した命令は絶対に守る。その決断に、どれ程の思いが込められているのかを、痛いほど感じるから。



「そうだな、冷徹非情なプリーモ様には縁のないことだな」
「忘れたよ、そんな昔のこと」


少し照れたようにはにかんで横を向くジョットが、Gにはたまらなく愛しく思えた。


「ジョット」

Gはジョットの金色の髪に触れる。こうして彼の髪を触るのが好きだった。艶やかでさらりと手に馴染む、指先で感触を確かめながら、くるくると髪いじりをしてはらりと解かす。


「G、これ、嫌いじゃない…」

ジョットは横を向いたまま、ぼそっと呟いた。

(髪を触られるのが)


「ジョット、お前の髪はやわらかいな。
昔はよく、こうしてよく髪をすいてやってたっけ」


ジョットはおとなしくじっとしている。心地よい時間が流れる、並森の町を見下ろすこの地は、休息には格好のロケーションだ。良い空気が流れている、ここには戦いが日常にない、こんな時代に生きるデーチモたちは、覚悟を体現するために、相当苦労を強いられたことだろう。日々いさかいが起きる澱んだ町、あの頃の俺たちは、常に勝つか負けるかだけを毎日考えていた。


「何考え込んでるんだ、ジョット」


「G、リングの中にお前を縛り付けたこと、すまないと思っている」


唐突にジョットが切り出した。
ばーか、とGはジョットの頬を軽くつつく。


「黙り込んでたかと思えば、そんなこと考えてたのかよ、くだらねぇ」
「そんなことって…。俺は自分の決断に後悔はしていない。けれど、お前たちは」
「はいストップ。それは愚問だ、意味がねぇ」


言葉を遮られ、ジョットは少しむくれた。幼馴染みのGにだからこそ言えたことなのに。
いつも考えていた、みんなを護りたいという思いとは裏腹に、危険な目に遭わせているのは誰だ、守護者という糧に縛りつけているのは自分ではないか。Gも他の守護者も、何も意思まで拘束することはなかったのではないかと。


(リングの適応者だからじゃないんだ、ジョット、お前だからこそ…)


「もっと色っぽいことが言えないのかねぇ。いい天気だぜ今日は」
「もういい…」
「お姫さんはご立腹か。つれないな」
「姫とか言うな


Gはこんな調子でいつもはぐらかす。だから不安で。

ふいにGの手が伸びて、ジョットの頭をぐいっと自分の肩へ寄せた。


「どれだけ一緒にいると思っているんだ、いいかげんわかれよ」


耳元でGの聞き慣れた優しい声がする。
そうだな、俺はいつもお前に怒られている。弱い自分を吹き飛ばしてくれて、強い気持ちを持てるように、いつもお前は…。


「お前と一緒にいることができて、本当によかった」
さすが右腕を名乗るだけのことはあるな、とジョットは笑った。


(わかってないな)


Gは、腕の中の無防備な幼馴染みを、恨めしそうに睨む。どれだけ一緒にいても、越えられないものがある。変わることを恐れているのは、俺の方かもしれない。この位置に、居心地の良さを感じてしまっている。

一番近くて、一番遠い。


(触れたくても、触れられない)


お前の負担になるのなら、俺はお前の最高の右腕として側に居続ける。それが俺の覚悟…。



ジョットはGの肩に体を預けながら、眼下の街を眺める。

「あの街は、今、こんな風に穏やかだろうか」

(俺たちがいた街のことか)
「そうだな、きっとみんな明るく笑ってるさ」

「俺が始めたことは、間違った方向へ進んではいなかっただろうか」
「それはこれからデーチモたちが決めるんだろ」
「…即答だな」
「お前の右腕をもっと信頼しろよ」


お前が迷うときは、俺が答えを出してやる。お前ひとりが傷つかないように、俺も背負ってやる。だから安心しろ、俺の前ではプリーモでいなくていい。ジョットのままで、あの頃の俺たちのままで…


「あの子達が、未来のあしたもしあわせならいい」
「お前ほんとロマンチストだな」
「…からかうな」




護ってやってくれ、お前たちで。




こんな風に、『デーチモ』が笑っていられるように。








未来のあしたも






end

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