Novel-Ι

□月がみている
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ずっとその視線からは逃れられなかったんだ。




『月がみている』






…っん……っ………


まどろみの中、ジョットは微かな違和感を覚えて覚醒する。


部屋の窓からやわらかな月明かりが忍び込んでいる。

ここは…そう、執務室だ。昨夜書類の山と格闘中、ふいに襲ってきた睡魔に勝てず、ソファで横になった。ひとときのつもりであったが、時間は思いがけなく経過していたらしい。


時計の短針は『3』を指し示している。


静かな室内に漂うすえたインクの香りはいつもと変わらない。ジョットは少しホッとする。


警戒心が欠けていた。うたた寝するとは。


ボンゴレも急成長したとはいえ、自警団上がりの新興集団にしか過ぎない。まだ確固たる組織として機能しているとは言えないのだ。本部内ではあるが、何が起こるかわからない。様々な状況を想定して、すべての動向に気を配る必要がある。


俺が無防備ではいけないんだ。微かな気の乱れさえ、見逃すことで命取りになるかもしれない。


超直感は時にジョットを弱気にさせる。


ボスとして、仲間を危険な目にさらすわけにはいかない。その責任感から、この感覚は常に研ぎ澄まされている必要がある。それはつまり、若きゴッドファーザーの神経を否応なくすり減らすことになる。


ジョットはまだ気だるい身体を少し起こして、机の上の水差しを取りグラスに水を注いだ。


俺がボスということが不自然なんだ。
仲間を、護りたい……
それだけを考えていればよかった頃が懐かしい。


やるべきことは山ほどある。いくら心労が重なったとはいえ、周りに悟られるわけにはいかない。いかなるときも平常心を保ち完璧であること、それがトップに君臨する者の在り方なのだとジョットは自分に言い聞かせている。


仲間のためか……
己れの保身か……


…ふっ……


ジョットはグラスを傾けて水を飲み干す。


喉が渇いている、いや、もっと奥の、身体の奥深いところで渇きを感じる。


…時計の短針は、相変わらず『3』を指し示している。
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