ヴァンガード短編

□あなたは独りじゃない
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「はいはい、病人の周りに何時までもいないの!もうすぐ次の授業でしょ」

手を叩いて今の時間を告げる先生。これ以上留まっては授業に間に合わない上、アイチに負担をかけてしまう。
彼女達、特にコーリンとミサキは後ろ髪を引かれる思いで、渋々退室していった。

「さて、先導君。あなたは昼休みになったら早退しなさい、担任の先生と親御さんには伝えておくから。それまで寝てなさい」
「はい、すみません」

ここに来て何度目かの謝罪の言葉に呆れながら、先生は連絡をしに出て行った。

残ったアイチは蓄積された体の疲労から来るダルさから、再び襲ってきた睡魔にその身を委ねるのだった。



時間は過ぎ、3時限終了後の中休み。2年のとあるクラス。

「・・・サキ!・・・ミサキ!」
「っ!!アカリ」

ミサキはハッとなって顔を上げ、前の席でこちらを向いているアカリと視線を交わす。

「もう何回も呼んでるのにぃ」
「ごめん、ぼぉっとしてた」

彼女のぼぉっとはたった今の事だけではない。授業中も殆ど上の空、厳密に言えば全く別の所に意識を向けていた、と言った方がいい。
その原因は言うまでもない、アイチのことだ。

「そんなに心配?アイチ君のこと」
「そりゃそうだよ。アイチは、元気が取得ってわけじゃないし、色々と繊細だし」
「好きだし?」
「っ////!!アカッ」

顔を真っ赤にして怒鳴ろうとしたが、周りを気にしたアカリが即座に口を塞いだ。ミサキもそれに気付き己を落ち着かせる。

「・・・アカリ〜」
「そんなに睨まないでよぉ。それにしても、変わったよねぇミサキって。去年まで恋なんかとは無縁だったのに、それ以外でも良く笑う様になったし」
「別に無縁って訳じゃ・・・いや、そうかも。って、あたし笑ってなかった?」
「ぶっきらぼうでした!それを変えたのが、アイチ君だったり、カードファイトだったりするの?」

真面目な顔になったアカリ。ミサキが年相応の女の子らしい所を見せる様になった事が嬉しく、その切欠になったものを聞きたかったのだ。

「そうだね。アイチと出会って自分の過去と向き合えたし、カードファイトがアイチや仲間と出会わせてくれた」
「そっか。ああ〜私も恋したいなぁ」
「アイチは渡さないから」
「お生憎、あんたとアイドルとの争奪戦に混ざる勇気はありません。でも、カードファイトかぁ」
「始めるなら何時でもいいな。うちの店で用意してあげる」
「ん、考えとく」



4時限目が終了し昼休み。殆どの生徒が思い思いに昼食を取り、自由に過ごしている中、カードファイト部のメンバーは真っ先に保健室に向かった。

途中でミサキと合流、保健室のドアを開けると、丁度アイチがベットから降り、ブレザーを着ている所だった。

「アイチ、大丈夫か?」
「ナオキ君、みんな。うん、大分楽にっ」

なったと言いたい所だったが、歩み寄ろうとした時足がもつれてこけそうになった。慌ててナオキが腕をつかんで支えた。

「オッと!大丈夫じゃねぇよ、1人で帰れそうか?」
「うん、何とか」

気を遣わせまいと、アイチは笑顔を作り、彼が持ってきた自分の鞄を受け取った。
ナオキの後方からコーリン達がやってくる。

「アイチ、帰ったらゆっくり休みなさいね」
「授業内容の方は僕に任せてくださいです!」
「何かあったら、直ぐに連絡しなよ」

皆が心配してくれる、それが嬉しく反面申し訳なくて、

「ありがとう。ごめんね」

感謝と謝罪、両方の言葉が出てきたのだった。



下足置き場まで見送られて、帰るアイチ。

『こんなに弱かったっけ、僕の体っ』

朝までは気付いていなかったが、今は手に持つ鞄が非常に重く感じている。
最近は高校生活の事、カードファイト部の事で神経を使い続けていた為、今朝まではそれで体が持ったのだろう。
それも限界を迎えればこの有様だ。

何時もより遅いペースで帰路を進むアイチは、後日体力作りでもしようかと少しだけ考えたのだった。



帰宅したアイチを、連絡を受けた母シズカがリビングから出てきた。

「お帰りなさい、大丈夫?」
「うん。ごめんなさい、お母さん、作ってくれたお弁当食べれなくてっ」
「そんなのは良いから。あなたは部屋で休んでなさい」

アイチから鞄を取り部屋へと促すシズカ。こんな時までも気を使う息子に半ば呆れてしまう。
そんな性格だから、初等部の頃は苛められても自分からは何も出来なかった。
見かねたシズカは中学からは転校させたのだが、改めて宮治学園に進学すると言い出した時はどうなるかと思っていた。

『上手くいっているみたいだったけど、気持ちに体が付いていかなかったのね』

息子の気持ちを察し、シズカはリビングに戻っていった。


自室に入ると、アイチは制服を脱ぎハンガーにかける。正直脱ぎ捨ててしまいたいが、そこは辛うじて理性が働いた。
そのまま部屋着に着替えると、気だるい体をベットの中へと誘った。

寝なれた布団に包まれると、理性は飛び去り、疲労からの睡魔が襲い掛かってきた。

『今は寝よう・・・明日、は・・・ちゃんとっ』

明日、ちゃんとした形で学園生活を送れる様にと、アイチは本日3度目の眠りに付いた。


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