ヴァンガード短編

□何が変わっても変わらない
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〜何が変わっても変わらない〜


ヴァンガードファイト全国大会が終わって、数週間が経つ。

私とシンさんが入荷した品物を取りに行っている間に、アイチが来店していた。
先導アイチ、全国大会で戦った私と同じチームQ4の一員で、私の大切な恋人。

大会が終わって色々忙しかったから、会えて嬉しいなぁ。


ただ今日はおかしかった。
ファイトテーブルに1人でいて、デッキを見て慌てている。

私達に気付いてアイチが駆け寄ってくる。

「あの、ミサキ、さん、店長。僕のデッキがっ」
「アイチのデッキ?」
「どうしたんですか?」

デッキを差し出してきたから、私達はそれを見る。
ついでに、来店した森川達も覗き込む。

アイチのデッキ、ゴールドパラディンのデッキだ。

「それが、どうかした?」

何時も見ているデッキだから、尋ねてみた。

そうしたら、アイチは唖然となっていた。


アイチは自分のデッキが変わったと言うけど、
変な事言うね、アイチはずっとゴールドパラディンだったでしょ?
森川達もそう言ってるし。


「ゴールドパラディンのどれかが無くなったとか?」

まさか、どこかのクズに中のカードを抜かれたとか?!、でもそんな感じじゃない。
でも、ドンドン表情が沈んでる。

これは、別の何かが本当にあったのかも。

「アイチ、後で私の部屋に来て」

私はアイチを部屋に誘う、みんながいたら話せない事もあるかもしれないし。

べ、別に2人きりになってイチャイチャしたいとかじゃないから!!



シンさんに少し時間を貰って、私の部屋で話を聞いた。


「えっと、つまり、その変な子供とファイトして、気が付いたらデッキが変わってて、その子もいなくなった」
「・・・うん」
「おまけに、私達の記憶も変わった」
「・・・うん」

一緒にベットに座って話し終えたアイチ。

何と言うか、非現実的な話だよね、ファンタジーの世界ならありそう。
あ、でもこの間までのPSYクオリアもあるし。


それに、アイチがさっきより沈んでる。
なんだか、初めて会った時みたい。

こうなったら、

「アイチ、ファイトしよう」

私はヴァンガードファイトを申し出る。

「え、今から?」
「ファイトしてみれば、それが初めてのデッキかどうか分かるし」
「う、うん・・・」
「あ、勘違いしないで。私は、アイチが嘘を付くような奴じゃないって知ってるから」

私は、アイチを疑ったりしない。

だからこれは、私自身の確認なんだ。
あんなにアイチと一緒にいた私の記憶が、本当に違うものなのか。


部屋の丸テーブルで早速始める。

「「スタンドアップ、ヴァンガード!」」

私のファーストヴァンガードは“神鷹一拍子”、
アイチのは“草原に吹く風”サグラモール、何時もの通り、の筈。



ファイトは私の2ターン目を終えた。

正直、こっちが焦ってる。
普段なら、あんなに楽しそうにファイトをするアイチが、今はずっとテンパってる。
初めてデッキに触れているみたいに、みたいじゃ、ない?

「僕のスタンド&ドロー」

アイチの2ターン目、何時もならここで、


あれ?ここで、何にライドするんだっけ?

確か、白い鎧を纏った騎士で、アイチが櫂の奴から貰ったって言う勇気の証でっ。


「・・・神技の騎士ボーマンにライド」


違う、それじゃない!

アイチはあのカードを、あのユニットを僕の分身って言って大切にっ・・・あっ!


「アイチ!」

私は、ファイトを止めた。
もう充分に分かったから。

「ミサ、キ?」
「・・・違う・・・アイチのカードは、アイチの分身はそれじゃないっ」
「っ!!」

目を見開いて驚くアイチ、そして次第に眼が潤んでる。

「もう、大丈夫だから」

後ろに回って抱き締める。
そうだよ、自分の大切なものがいきなり変えられたら、誰だって不安になる。
私が同じ立場でもそうだ。

それに何より、

「それと、ごめん。違うのは分かっても、本当に思い出せない」

アイチの大切なカードの名前も、どんなクランだったのかも分からない。
こんなに自分の記憶力が役に立たないのを、腹立たしく思ったことはないよ。

「いいよ、分かってくれた事が一番嬉しいからっ」

私に縋り付いてくるアイチ、ああ何だか久しぶりな気がする。
最近は私の方が甘えてたから、甘えられるのも恋人として嬉しいよ。

アイチの髪を撫でながら、私はふと思った。

「でも、デッキを替えただけじゃない、私やみんなの記憶まで変わるって、一体どうしたら」
「・・・関係があるとしたら、多分僕がファイトした子供、かも」

普通の子供じゃ無理、じゃあ何か特別な・・・ダメ、頭が回らない。

「今は何もかも分からな過ぎるよ。暫く様子を見よう」
「そう、だね。その間は、僕はこのゴールドパラディンを使うのか・・・」
「嫌なら無理しない方がいいんじゃない?」
「ううん、嫌とかじゃないんだ。ただ慣れなくて」

そうだよね、アイチがユニットを嫌う事ってないし。

って、そろそろ戻らないと、この時間帯って子供のお客が多いんだよね。

「アイチ、私戻らないと。この後どうする?」
「・・・今日はもうこれ以上ファイト出来そうにないから、帰るよ」
「分かった」

ちょっと寂しいけど、今のアイチに無理は言いたくない。


一緒に出ようとドアノブに手をかけた時、

「み、ミサキ!」

張った声で呼ばれて、何かと思って振り返ったら、
アイチは、背伸びして私にキスしてきた。

ちょ、不意打ちだって////!!


「そ、相談に乗ってくれたお礼、かな////」

した方も顔が真っ赤って、さっきまでのシリアスな感じぶち壊しじゃない!

でも、

「ああ〜もう!アイチ♪」

可愛い過ぎ、ギュ〜ってせずにはいられない。
しなかったら女じゃないよ、私!

キスなんて、何回もして、それ以上だってしてるのに、
こう言う時の健気なアイチは、破壊力抜群。

何時までも、こうして腕の中に閉まっていたい、頬擦りしていたい。



大好きなアイチ、デッキや記憶が変わっても、それだけは変わらない。

これからも、私が側にいるからね。



結局、遅れてシンさんに泣かれたのは、半分どうでもいいぐらい私は上機嫌になっていた。



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