ヴァンガード短編
□白い1日
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時間は進み、14日の午後。
下校時間、エミは友達のマイと共に学園の正門から出た。
すると、
「よっ、エミちゃん」
「三和さん!」
三和が待っていた、彼らしい気さくな笑顔を振りまいて歩いてくる。
「待っててくれたんですか?」
「ああ。今日は特別だしね」
ニイッと笑う三和に、自然とエミも笑顔になる。
「エミちゃん、私行くね」
「あ、マイちゃん。ごめんね」
「ううん、折角のホワイトデーだもんね。三和さん、エミちゃんをよろしくお願いします」
マイは気を遣って、1人で帰ることにした。
その際、丁寧に三和にお辞儀をする。
「何か気遣わせちまったな」
「そう、ですね。今度お礼しないと」
「それより、早く行こうぜ。周りの視線がキツいしよ」
え?と周囲を見回すエミ、他の生徒が興味津々と見詰めていた。
恥ずかしくなって顔が真っ赤になる。
「ほら、行くぜ」
エミの手を取って歩き出した三和。
『ば、バレちゃうっ////』
羞恥心と片思いの相手である三和と手を繋いでいる事とが重なって、急激に体温と心拍数が上がる。
何とかして鎮めようと、ずっと下を向いている。
『バレてますよ〜・・・お陰でこっちがバレそうにないけどな』
三和も、この後の事とが相俟って心臓がうるさいぐらい鳴っていた。
2人はバレンタインの時に使った公園に来た。
あの日と違って、今は幾分温かい。
同じ様にベンチに腰掛ける。
「んじゃ、早速。エミちゃん、これバレンタインのお返し」
「ありがとうございます」
三和が渡したのは、ラッピングされたチョコチップ入りクッキー1枚。
かなり大きくエミの手をはみ出している。
「わりぃ、成功したのがこれだけだったわ」
「ええ!三和さんの手作りですか?!」
「まぁな。姉貴に教わったんだけど、中々難しくてな」
頭をかいて苦笑いする三和。
しかし、エミの胸は更にドキドキが増してしまった。
『三和さんの手作り・・・』
1ヶ月前に、少しでいいから奮発して欲しいと恥ずかしさを誤魔化す形で言ったエミ。
まさか手作りされるとは思っても見なかった。
嬉しくて、どこか申し訳なくて、
心は温かくて、胸はキュンと締め付けられる。
「それともう1つ。エミちゃんの言う事、1つ何でも聞くぜ」
「え?」
もう1つのプレゼント、と言っていいかは不確かだが、エミにはそう思えた。
そして、思考回路が正常でない頭で、
「あの・・・少しの間でいいので、抱っこしてくださいっ」
かなり大胆な事を言ってしまった。
『わ、私、何言ってるの?!』
頭の中で慌てるものの、口は訂正の言葉をつむげないでいる。
そうこうしていると、
「承りました、お姫様」
三和はエミのリュック鞄を外し、抱っこして自分の膝に据わらせた。
「み、三和さん////!」
「言っただろ、何でも聞くってよ」
慌てるエミの頭をポンポンと優しく叩く。
その手や、支えられている手から伝わる温もりで、もう断る気も失せていく。
「・・・はい」
三和のプレゼントを素直に受け取ったエミ。
そのままの体勢で食べた手作りクッキーは、少しビターだった。
それでも、十分甘くて、心に染みる味。
『私・・・やっぱり好きなんだっ』
三和タイシ、と言う年上の少年が、自分は好きなのだと、改めて実感したのだった。
一方で、
『ちょっと不味いな、こりゃ。ま、スキンシップ程度に思っとけば何とかなるだろ』
当の三和自身、余裕はそんなに無かったのだった。