ヴァンガード短編

□スイートラブ
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井崎と別れたアイチは、カードキャピタルに向った。
今日は定休日なので店の入口にはシャッターが降りていた。

アイチの目当ては店ではなく、その上の戸倉家。
店の裏手にある玄関に向かい、呼び鈴を鳴らそうとした時、

「アイチ?」

後ろから呼ばれて驚き振り返ると、

「み、ミサキ」
「うん。今帰ってきた」

学校帰りのミサキがいた。
首にはクリスマスに渡したマフラーが巻かれている。
アイチも、手にはミサキからプレゼントされた手袋をつけている。


家の中に招かれたアイチ、もう何度も着ているのでかなり慣れている。

「店長さんは?」
「さぁ、買い物じゃない?」

シンがいないのを気に留めず、ミサキはアイチに先に自分の部屋に行く様伝えた。


ミサキの部屋はここ数ヶ月で変化した部分がある。

それは小さな丸テーブルが加わった事。

以前はミサキ以外使うものは居らず、友人を呼ぶ事も無かったので飲食をする際は自分の机に置いていた。
しかし、アイチと付き合いだし、ここに来る様になってからは、友人を呼ぶ事も増えたので、買うことにしたのだ。

何時も通り鞄を置いて、クッションに座っていると、

「温かい飲み物持って来たよ。紅茶でいい?」
「うん、ありがとう」

トレーに2人分の紅茶を入れてミサキがやってきた。
暖房を入れて直ぐなので、まだまだ部屋の空気は冷えている。

身を寄せ合うように座って紅茶を飲む。
ふと、アイチはトレーに置かれたものを見つけた。

「それって」
「うん、バレンタインチョコ」

猫柄の可愛らしい皿に置かれた4つの茶色い球体、トリュフと呼ばれるタイプのチョコだ。

「シズカさんに教わったの」
「母さんに?全然気付かなかった」
「ふふ、頑張ったんだから。さ、食べてみて」
「うん!」

ミサキの手作りチョコ、そう思うだけで心が弾む。

1つ摘んで口に運ぶ。
ひと噛みすると、パリッと薄いチョコの表面が割れて中の半生の甘いミルクチョコがとろける。

「美味しい!凄く美味しいよ!」
「ホント!良かった〜」

安堵したミサキは、早速2つ目に手を伸ばすアイチを見詰めた。

『はぁ〜アイチ』

どこかウットリしているミサキ、自分はとことんアイチが好きなんだなと自覚する。

穏やかな空気が、2人を包み込む。


が、アイチが3つ目を食べ終えた時点で状況が変わった。

「?アイチ、鞄からはみ出てる赤いの何?」
「え?・・・あっ」

アイチが自分の鞄を見た瞬間、目を見開いた。

赤い帯、リボンがはみ出ていたのだ。


ピキ〜ン、ミサキの中の女の勘、いやこの場合恋人としての勘が働いた。

「・・・ふ〜ん、アイチ、貰ったんだ。バレンタインチョコ」

2人きりの時とは違う声のトーン、ファイト時の雰囲気を帯びるミサキ。

不味いと思ったアイチだが、この少年は根が生真面目な所為でウソがつけない性格だった。

「う、うん。でもね、まだ1つも食べてないよ。1番最初はミサキのって思ってて・・・でも、ごめんね」

大切な恋人に不快な思いをさせてしまったと、頭を下げて謝るアイチ。


「謝らないで」

そっと頬に手が添えられ、顔を上げさせられた。
目の前には微笑んでいるミサキがいた。
ティッシュでアイチの口に付いたココアパウダーをふき取る。

「仕方ないよ、アイチは優しいから、他の子から貰っても断れないって分かってるし。寧ろ捨ててた方が幻滅してた」

優しさはアイチにとって一番の取得で、大切にするべき部分だ。
それを変えてまで愛して欲しいと思う様な、歪んだ愛情をミサキは持っていない。

アイチの鞄を覗いてみる、貰ったものは10個前後といった所。

「私の恋人はモテモテだ」
「うぅ、何だか恥ずかしい」
「良いじゃん、それだけ皆がアイチを認めてくれてるって事だよ」

俯くアイチの頭を肩に寄せて撫でる。
怒ってないと教えるように優しく丁寧に。

「ねぇ、これで全部?」
「えっと・・・実は昨日、コーリンさんから1つ貰ってて」


ミサキの手が止まった、そしてワナワナと震えだす。

見知らぬ年下の女子共ならそれほど気には留めない。

だが、コーリンとなれば話は別だ。
彼女は何かとアイチを気にかけて、色々心配している、それはいい。
だが、恋人の自分としては先手を打たれている気がしてならない。

PSYクオリアの時もそう、櫂が決勝前にレンとファイトした時もそう。
どれも自分が知らない間に。


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