ヴァンガード短編

□スイートラブ
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エミと三和は帰路を歩く、その間2人の手は繋がれていた。
恋人繋ぎ、と言う程ではなく、控え目だが確り握り合っている。

その間、三和は思い返す。

『いきなりハートを食うのは勿体なさすぎるよなぁ。折角、エミちゃんが愛情込めてくれてんだし』

ハートの意味も、それに込められた彼女の意味も分かっていた。

『とは言え、俺達は高校生と小学生・・・今はまだ知って内に留めるだけで良い』

恋愛の感情は、お互いまだ小さい。
形も、大きさもまだまだこれから。

『実際に伝え合うのは、エミちゃんがもう少しレディになってからな』

それまでは、このままの関係でいよう。

端から見たら兄妹に見えるような、年の離れた仲の良い男女。

後数年は、この想いを育んでいこう。


ただ1つだけ、欲張って。

「エミちゃん」
「はい」
「来年の分、予約していいかい?」

ちょっとした予防線を張っておこう。
この少女が、自分以外のチョコに、自分への愛情を超える量を注がない様に。


いきなり言われて、顔を真っ赤にするエミ。
しかし、少しだけ背伸びをしてみる。

「だ、だったらっ////三和さんも、お返しのホワイトデー・・・私のだけ、ちょっぴり奮発してください」

他の女性へのお返しより、少しだけ豪華にして欲しい、取られたくないから。

「了解しました、お姫様♪」
「もう、三和さんったら!」


笑い合って、少し強く手を握り合って。


先導家までの距離は、まだまだある。




時間は少しだけ戻って、後江中学校下校時。

「ふふん、ふ〜ん♪」

森川は異様にご機嫌だった。
後ろから付いて来ているアイチと井崎は、周囲の視線が恥ずかし過ぎて身を縮めている。

「も、森川君。何だかご機嫌だね」

勇気を出して質問したアイチ。

その途端、ピタッと足を止めた森川は、
輝かんばかりの笑顔をこちらに向けてきた。

「だってよう!今日はバレンタインだぜ、バレンタイン!って事は・・・コーリンちゃんが俺に愛情チョコをくれるってことじゃねぇか!!」

両手を組んで天を仰ぐ森川。
どこかの誰かが愛すべきバカ、と言っていた気もするが、ここまで来ると笑うしかない。

「残念だったな、お前ら!俺様と違って、チョコ貰えねぇもんなぁ〜」

自分たちに向ってケラケラ笑う森川に、久々にカチンと来た井崎だったが、

「今行くぜ、コーリンちゃ〜ん!!」

何故かダッシュしていった所為で、怒るに怒れなかった。


「ったくあの野郎」
「ま、まぁ、コーリンさんの熱烈なファンって事で良いんじゃない」

誰かを怒ると言う事を殆どしないアイチは、何とかオブラートに包もうとする。


「大体よう。俺はともかくとして、お前はもう貰ってんのにな」

実はアイチは既にクラスの女子から貰っていたのだ。

この約1年間のヴァンガードの活躍で、存在が薄かったアイチは一転してヴァンガードファイターの憧れの一人になった。
特に、内心のどこかでアイチの可愛らしい容姿に惹かれていた面々から、今日一斉に渡された。

にもかかわらず、森川は気付いていなかった、自分以外に盲目過ぎである。

「う、うん。正直、ビックリしてる」

去年とは大きな違いだ。
そして、もう1つの真実。

『い、言えない。コーリンさんから昨日貰ったなんてっ』


昨日、突然コーリンから連絡を貰ったアイチは、
彼女達姉妹が経営しているカードショップ“PSY”を訪れた。

すると、

『べ、別に深い意味なんてないから!義理よ、義理!』

半ば強引にチョコを、綺麗にラッピングされた長方形型、を渡されたのだ。

その際、長女のスイコ、三女のレッカ、が妙に微笑んでいたのは記憶に新しい。
コーリンから貰ったチョコは、一応バレンタインに食べよう、と自宅の机の上に置かれている。

で、今に戻る。


「それに、アイチは大本命が貰えるもんな」

羨ましいぜ、とアイチの頭をぐしゃぐしゃする井崎。

アイチとミサキの交際は、以前は隠していたのだが、
全国大会の決勝で、ミサキが感極まってその場でアイチに抱きついてしまい、日本中にその映像が流れてしまったのだ。
そうなると、もう誤魔化しは効かず、周知の事実になってしまったのだ(森川を除く)。

「うん。だけど・・・」
「だな、それどうする?」

それとは、当然アイチの鞄の中に眠るチョコ達。
これらは、言わば玉砕覚悟の女子たちの魂を表現したものだ。

「とりあえず、持って帰る」

心優しいアイチは捨てられない、願わくばミサキに見られない事を祈るばかりである。


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