ヴァンガード短編

□スイートラブ
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〜スイートラブ〜



2月14日、全国の女子が気合を入れる日。

日頃の感謝を込めた義理チョコや友チョコ、それに注がれる気合はせいぜい全体の2割だろう。

残りの8割はそう、大好きな男子への愛を込めた本命チョコへ全力で注がれる。


そして、先導家にはチョコ作りに精を出す少女達がいた。


バレンタイン2日前。

「ふふ、2人共気合入ってるわね♪」

先導家の母、シズカはキッチンで作業中の2人を見守っていた。

先導エミ、この家の長女。
本命チョコの相手は、絶賛片思い中の三和タイシ。

戸倉ミサキ、この家の子供達が常連のカードキャピタルの看板娘。
本命チョコの相手は、エミの兄、ラブラブ恋人同士の先導アイチ。

2人とも、愛情を込めてせっせとチョコを湯銭で溶かしている。

因みに、想い人の1人であるアイチは今この家にはいない。


「エミちゃんは、やっぱりアイツ?」
「えっと、はい////」

頬を赤らめるエミは、正に恋する乙女だ。
自覚したのはつい最近、まだまだ幼い恋かもしれないが、それでも初恋には変わりは無い。

『エミちゃんも何だかんだで女だね。でも、三和って私と同じ高1・・・まぁ、歳の差なんてね』

言っても4歳差、これぐらいの年齢間は大した問題ではないだろう。
何より、ミサキ自身、恋人は歳も背も下なのだ。

『年齢とか身長差なんて関係無い、好きって気持ちが大事』

うんっ、と心の中で気持ちを改める。

エミも、

『三和さん、喜んでくれるかなぁ』

不安と期待を胸に抱き、溶けたチョコを型に流し込んだ。



2日後のバレンタイン当日。
今年は火曜、この日はカードキャピタルは定休日。

ミサキにしてみれば幸いだったが、エミは三和に会うのは専らカードキャピタルだった。

仕方が無いので、エミは事前に連絡をして、放課後エミが通う学園の近くの公園に来てもらう事にした。


「じゃあね、マイちゃん」
「バイバイ、エミちゃん」

学校が終わり下校時間、校門を出てエミは、友達のマイと別れる。
家路が別々で、使用が無い場合はこの場で別れるのが日常だった。

だが、数歩進んだエミに、マイは声をかけた。

「エミちゃん!」

エミが振り返ったと同時に、

「頑張ってね!!」

笑顔でエールを送った。
この後、友人が何を行うのか、誰にどんな物を渡すのか、マイは理解している。

当人は顔を真っ赤にし、頷くことしか出来ず足早に目的地に向っていった。


『頑張れ、エミちゃん。応援してるよ』

心の中で、今一度成功を祈るマイだった。



吐息が白く染まるこの時期、
公園へ急ぐエミもまた、絶えず顔の周りを白く染めていた。

『三和さん、待ってるかなっ』

待たせたら悪いと急ぐ、その上で人にぶつからない様慎重に。


入口に到着し見渡すと、ベンチに座る見慣れた黄色い髪が見えた。

『三和さん!』

駆け出したい気持ちをグッと抑えて、歩き出した。


「遅くなりました」
「お、エミちゃん。そんな事ないぜ、俺も付いたばっかりだし」

笑顔を見せる三和だったが、エミは気付いている。
耳が真っ赤になっている、長時間冷たい外気にさらされた証拠だ。

『ごめんなさい』

高校生と小学生では下校時間が異なる為に仕方が無いのだが、
何事にも真面目なエミは、三和の親切心を無駄にしない様に心の中で謝罪した。

隣に座ったエミは、躊躇い気味に鞄から目的の物を取り出す。

「あ、あのっ、今日はば、バレンタインなので。三和さんには、何時もお世話になってるからっ!」

どうぞ!、と視線を合わせず手渡す。
とてもじゃないが、三和の目を直視するなど出来ない。

三和は三和で、可愛らしくラッピングされた袋のリボンを解いた。

中には、様々な形のチョコレート。

「おお〜美味そう!これ、エミちゃんの手作り?」
「は、はい!お母さんとミサキお姉ちゃんに手伝ってもらいましたけどっ」
「良く出来てんじゃん!じゃ、早速いただきま〜す♪」

何時もの明るい調子で、三和は1つ摘んだ。

『あっ』

エミは三和が選んだ形を見て、少し残念な気持ちになった。
選ばれたのは星の形、嬉しそうに三和は口に運んだ。

実は、エミはハートの形を1つだけ作っており、一番愛情を込めた。
それをワザと一番上に置いていたのだが、

『気合、入れすぎちゃったかな・・・』

気持ちが空回りしたと思い、心の中で落胆する。


「美味い!エミちゃん、流石だよ」
「そうですか?良かったです」
「ありがとな。さてと、そろそろ帰ろうぜ」
「え?」

三和は早々にチョコの袋を締めなおして、自分の鞄に入れた。

『ハート、食べてくれないの?』

先程よりも更に心が重くなる。

が、

「早く帰らないと、家の人心配するぜ。俺も、帰ってジックリ味わいたいし」
「・・・え?・・・あっ」

立ち上がった三和が手を差し出す。
その手と彼の顔を交互に見て、エミは先程の言葉の最後を思い返した。

『帰ってジックリって、楽しみは後にってこと?』

自分で勝手に解釈してしまっているが、彼の笑顔を見ればそう思ってもいいかもしれない。

「・・・はい////」

手を取った瞬間、エミの体温が一気に上がる。
色々とバレてしまうのではないかと思ったが、今は気にしない。

2人で一緒に帰る、それが何より嬉しかった。


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