ヴァンガード短編
□時を越えた(?)
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アイチとミサキは一緒に寝る事が多い。
どちらの家の泊まろうと、同じベットで寝る。
その際、殆どミサキがアイチを抱き枕状態にする。
背がミサキの方が高いのだから自然とそうなるのだが、ミサキの一種の癖なのだ。
パッと見、女子に間違えるほど可愛らしいアイチを、ギュ〜としたいのだ。
だが、今回ばかりはそれは叶わない。
『私が、ギュ〜ってされてるっ』
アイチの腕の中、胸に顔を埋めるミサキは、普段とは違う状況に中々寝付けないでいた。
顔を上げてみる、アイチはよく眠っている。
『ふふ、可愛い』
手を伸ばし、起こさない様に頬に触れる。
穏やかな寝顔で自然と口元が緩む。
だが、
『私、ずっと考えてた。どうしてこの姿になっちゃったのかって』
表情を真剣にして、ジッとアイチを見詰めるミサキ。
『・・・多分、後悔なんだと思う』
昔、幼かったあの頃にもっと一緒にいられたらどうだったのか、
もっと多くの時間を共有出来たら、どうだったのか、と。
『でも、私だけ変わったって何の意味もないよね。アイチにも、皆にも迷惑かけちゃったよね』
体だけ変わった所で何の意味もない、過ぎ去った時間を取り戻す事も出来ない。
寧ろ、2人の空白の時間が有ったからこそ、今の関係に発展できたのかも知れない。
『だから、私は戻りたい・・・戻って、何時も通り私がアイチを抱き締めたい』
ミサキは起こさない様に、アイチの顔に近づく。
両手で頬を包み、
―ちゅっ♪―
可愛らしいリップ音を立てたキスをした。
頬を赤らめつつも、ミサキは、再びアイチの胸に顔を埋めて瞳を閉じた。
『アイチ・・・おやすみ』
翌朝、
「う〜ん・・・ふぁ〜」
欠伸をして起きるミサキ。
開眼一番に、アイチの寝顔が映り、笑みが零れる。
「やっぱり可愛いなぁ、アイチは」
頬を突いてみる、むにゃむにゃと口を動かしたが、起きる気配は無い。
「ふふっ、さてと・・・ん?」
ミサキは気付いた、寝巻が異常にキツイ事に。
はち切れんばかりの子供用パジャマをサッと脱ぎ捨て、自分の体を確認する。
頭、頬、胸、腰、脚、体中を触って理解した。
「戻ったぁ〜!!」
一晩経って元の体に戻ったのだ。
「アイチ、起きて!私、戻ったよ!!」
「う〜ん・・・ミサキ・・・ってえぇ?!!」
揺さぶられて起きたアイチの目に飛び込んできたのは、ミサキの裸。
戸惑うアイチだがミサキは、お構いなしに自分の豊満な胸に顔を押し付けた。
「やったぁ!やったよ、アイチ!!」
「ちょ、お、落ち着いてぇぇ!!」
パニックが治まり、ようやく着替えたミサキに安心するアイチ。
「でも、どうして元に戻れたの?」
時間が経てば切欠は訪れると言われたが、何が切欠なのかピンと来なかった。
「う〜ん・・・あ、でも昔から言うじゃない?」
何か分かったミサキは、座っているアイチの隣に腰掛け、耳元に口を近づけた。
「呪いを解くのは、王子様のキス、って♪」
この場合逆なのだが、ミサキにとってはどっちでもいい事だった。
愛する人との口付けが、
今を生きる事の大切さを思い出す切欠となったのだから。