ヴァンガード短編

□時を越えた(?)
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〜時を越えた(?)〜


何も無い、普通の1日が始まる、筈だった。


カードキャピタルの2、3階は居住区で戸倉家の家。

自分の部屋のベットで起きようとしているミサキ。

「う〜ん・・・ふぁ・・・」

欠伸をしながら起き上がる。
それに気付いた愛猫、店長代理こと“ちゃお”も起きた。

だが、ミサキのベットに乗った途端、

「にゃあ〜?!!」

驚愕の鳴き声を上げ、また降りてしまった。

「おはよ、ってなに驚いてんの?」

目を見開く、そんな様子のちゃおに首をかしげたミサキ。


ただ、彼女自身直ぐに“違和感”に気付いた。

何時もと同じ布団なのに、少し重い。

寝巻―ワイシャツ1枚―が何度直してもズルズル肩から落ちる。

何故だと思い、ベットから降りようとしたら、床に脚が付く時間が長く、落ちそうになった。

「え?何がっ・・・」

立ち上がって、全身用の鏡を見て、ミサキの思考が停止した。


外見が小さく、それこそ約10年前に戻った様な姿になっていた。


「えええぇぇぇぇ!!!」


戸倉家、衝撃の1日が始まったのだった。



開店前のカードキャピタルに、チームQ4と三和が集まった。
ただし、アイチはまだ来ていない。

そんな状況で、

「ま、マジでミサキさんなのか?」

カムイは、自分よりも頭半分小さいミサキをジロジロ見ていた。
無理も無い、摩訶不思議な現象が起こってしまったのだから。

小さくなったミサキは、不機嫌顔でその当時来ていた服―フリルの付いた可愛らしいもの―を着ている。

「店長、よくねーちゃんの小さい時の服あったな」

三和が何となくシンに聞いてみたら、

「もしもの時の為に取って置いたんですよぉぉ〜!」

涙を流しながら、カメラを片手に震えていた。
一体どんなもしもを想定していたのか。


「撮ってんじゃねぇ!」

普段よりも幼い声でスケ番台詞を言われても怖くは無いが、蹴りは出る。
ミサキの蹴りが、シンの脛に直撃、声にならない声を上げて床にのた打ち回るはめに。


「はぁ〜何でこんな事にっ」

勢いが冷めて、溜息が漏れるミサキ。
ここで何か思い当たったのか、櫂が尋ねる。

「戸倉、オラクルの連中に聞いてみたか?」
「あんた達が来る前に行ってきた。でも・・・」


ミサキは朝食を摂った後、1度惑星クレイに行って、オラクルシンクタンクの助言を貰いに行ったのだ。



オラクル本社ビル、社長室。


「ほう、見事に縮んだのう」
「見せ物じゃない!こっちは真剣なの!」

手をブンブン振って抗議するミサキだが、
頭を撫でるアマテラスからして見れば、微笑ましい子供の行為にしか見えない。


「ミサキ様の変化の原因は分かりませんが、要因の1つとして考えられるのは、恐らくツクヨミお嬢様かと」

社長秘書のセクレタリー・エンジェルが、眼鏡を掛けなおしながら答える。

「我が妹がかえ?ミサキよ、思い当たる節はあるかのう?」
「ツクヨミ、ね。そりゃ、両親が残してくれたカードだから特別大切にしてたし、最近は専らツクヨミのライドが多いけど」

と、そこで、部屋のドアが開き、ツクヨミが小走りでやってきた。

「わあ〜ミサキ、ホントにちっちゃい!私と同じ♪」

ぎゅ〜とミサキに抱きつく月の女神、ここに来る度にする事だが今日は別。

「ちょ!離れなさい!!」

普段の姿ならどうと言う事は無いツクヨミの力も、この姿では振り回されかねない。

助けを求めて周りを見渡すが、
アマテラスは振袖で口を隠して笑っているし、秘書は微笑ましいのか見守るだけ。

自分の分身とも言えるロゼンジ・メイガスことサラに至っては、

「ミサキがちっちゃい・・・私とあの人の子も、きっとあんな風に・・・」

ウットリした顔でいらぬ妄想に浸っている始末。

役立たず〜!!と心の中で嘆いていると、


「ツクヨミ様、先導者が困っておりますよ」

おっとりした口調で現れた中性的な男性、羽織袴姿の“宵月夜の陰陽師”ことセイ。
本社から離れた所にある社に住み、占星術を行っている。
ツクヨミの世話係でもある。

「あ、セイ!」

ツクヨミはミサキから離れ、セイに駆け寄り袖をつかむ。

天の助けとはまさにこの事と、解放されて安堵したミサキ。

「助かった〜・・・で、セイ、私は元に戻れるの?」

もう頼れるのはセイしかいない、と尋ねると、

「時の流れに、身を委ねるのです」

セイは普段通りの口調で、それでいて真剣な瞳でミサキを見詰める。

「さすれば・・・切欠は見つかるでしょう」




そして今、陰陽師に言われた事を皆にそのまま伝えたミサキ。

「すっげぇ、曖昧」

口の悪いカムイの一言だが、まさにその通り。
あの後もっと詳しく聞きたかったのだが、それでは、と一礼してセイは立ち去ってしまった。

「つまり、時間が経てば直るってことじゃねぇか?」

三和がざっと話を纏めて結論を出した。
ミサキも同意なのだが、何時戻るか分からないと不安になる。

その時、

「すみません、遅れました!ミサキさんが大変・・・って」

Q4最後の1人アイチが、妹のエミを連れてやってきた。
変貌したミサキの姿を見て、言葉を失う。

「ミサキ、お姉ちゃん?」
「う、うん、エミちゃん」

自分を姉の様に慕うエミも、目が点になっている。

ただし、

「お姉ちゃん、可愛い♪」

エミは何故こうなった、よりも今の状態に思考が支配され、可愛い物好きに火が付いた様だ。
ミサキの手を取って目をキラキラさせている。

「え、エミちゃんっ」
「ねぇどうしてちっちゃくなったの、お姉ちゃん?!あ、私のほうが大きいから違うのかな?」

もうこの際どっちでもいい、と諦めの境地に入ったミサキ。



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