ヴァンガード短編
□時を越えた(?)
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「ミサキさん、どうして」
我に返ったアイチが近づく。
身長が大きく逆転して、ミサキが見上げる形になっている事に違和感を感じる。
「PYSクオリアの影響の1つと思われるが、詳しくは分からん」
櫂が来て要約して説明する、ツクヨミも原因の1つだと付けて。
不安そうなアイチを見て、エミから離れたミサキ、
「時間が経ったら元に戻るみたいだから、心配しないで」
見上げながら手を付かんで安心させようと笑顔を見せる。
その仕草に、
「・・・ミサキ、ちゃん」
昔の彼女を思い出し、ついその当時の呼び方をしてしまった。
ミサキも、数秒間を開けて目を見開く。
この姿で最後に会ったのは、それこそ最初に会った時だ。
次に出会った時は、もうお互い成長して、自分はアイチを追い越していた。
それはアイチも同じで、再会した時、時間の流れと体の成長の残酷さを痛感したものだ。
お互いに少し切ない雰囲気を出していると、
「いけない!そろそろ開店準備をしなくては間に合いません!」
復活したシンが慌てだして、幸いにも空気が変わった。
「や、やばい!私、どうしよう・・・」
「え、えとっ、僕も手伝うから!」
身長が足りないミサキの為にと、動くアイチ。
そのまま、チームQ4+2名で今日1日店の手伝いをすることになった。
来客への説明は、ミサキは体調が悪くて休んでいる、
この子は親戚の子で遊びに来た、となった。
普段よりも数倍慌しかったカードキャピタルも何とか閉店時間を迎えることが出来た。
「みなさん、お疲れ様でした」
手伝ってくれたアイチ達へ、バイト代とまでは言わないが、ブースターパックがプレゼントされた。
カムイやエミは貰って一際喜んでいた。
そんなこんなで皆が帰ろうとし、
アイチとエミが店から出ようとした時、
「アイチ・・・」
ミサキが裾を掴んで引き止めた。
「行か、ないで」
上目遣いで訴えてくる。
自身に起こった事態に、誰か側にいてもらいたい。
大好きな人がいて欲しい、不安を宿す瞳が伝えている。
「アイチ、いてあげたら?」
ミサキを心配して、エミが兄に残る事を勧める。
「お母さんには私が言っておくから、ね」
「エミ、うん、ありがとう。じゃあ、ミサキ、店長さん」
「ええ、構いませんよ」
シンが、アイチが残る事を了承する。
「ミサキ、今日は一緒だよ」
「うん!」
全力で抱きついてくるミサキに微笑むアイチだった。
「じゃ、エミちゃんは俺が送っとくぜ」
ここでまだ残っていた三和が名乗りを上げた。
カムイがいたら絶対に恨めしい視線を送っていただろう。
「いいんですか、三和さん?」
「良いって、こんな時間だ、女の子1人じゃ危ねぇし」
良いよな、とアイチに許可を貰おうと視線を送った三和。
「うん、三和君。お願いね」
「三和!エミちゃんに変な事するんじゃないよ!」
抱きついているアイチからヒョッコリ顔を出して、ミサキは睨んで釘を刺す。
しないしない、と普段よりも数段迫力に欠けるミサキに手を振って、三和はエミと一緒に帰りだした。
その途中、三和はエミに尋ねた。
「珍しいんじゃねぇ?自分からアイチを泊めるのを勧めるって」
「そうかも、ですね。でも、あんなお姉ちゃん見てたら、放っておけないし」
何時も凛として自分を可愛がってくれるミサキが、あんなに弱々しくしていたのだ。
今日だけお姉さんになった自分が、アイチを譲らなければ。
そんなエミなりの気遣いだった。
「そっか。偉いな、エミちゃんは」
ポンポン、とエミの頭を撫でる三和。
「・・・はいっ」
今日は大好きな兄とは帰れなかったけど、
大きくて暖かな手で褒めてくれるこの人がいるから安心と思えた。