ヴァンガード短編

□お帰りなさい
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〜お帰りなさい〜



秋の全国大会予選から2日経った日、
今、私は実家のカード店“カードキャピタル”で開店準備をしている。

今日は、叔父のシンさんの意向で非公認のショップ大会が行われる。

ただ私は少し乗り気じゃない。


昨日、私の大切な人、先導アイチが大きな変化を遂げた。
いや、解放されたと言った方がいいと思う。

地区大会以降、ファイト中は人が変わった様に、鋭く冷たい雰囲気を漂わせるようになった。
それは全国大会に出て加速していった。

詳しい原因は分からない(多分カードの声が聞こえるって言ってた事が関係しているとは思うけど)、

ただ、強さを求めさせた櫂と、シャドウパラディンのデッキを手にした事は無関係じゃないのは分かった。

でも、私は何も出来なかった。
アイチの恋人だって自負してたくせに、一番肝心な時に何もしてやれなかった。


結局、櫂がヴァンガードファイトして、アイチを今までのアイチに戻してくれた。

またうちに来て楽しくファイトしてもらえると喜ぶ反面、
ヴァンガードでは、何もかも櫂には敵わないと思い知らされて悔しかった。


そして今日、もうすぐ開店する。
あの後、アイチはあのまま家に帰ったから、殆ど話をしていない。

それどころか、地区大会が終わってから、私はアイチとまともに会話出来ていない。

本当なら、寂しいって言いたかったけど、言える雰囲気じゃなかったから。


「はぁ・・・」

思い返して、溜息が出る。
アイチは元に戻ったって分かってるのに、不安は消えない。
ちゃんと話をして、抱き締めたい。


「ミサキ、そろそろ開店ですよ」

シンさんに言われて我に返った私、猫の店長代理“ちゃお”も鳴いて教えてくれる。

外に出てOpenの札をかけようとしたら、

「いっ!」

既にお客が大量に群がっていて、私は思わず一歩退いてしまう。
気を取り直して、店を開くと雪崩のように入店してきた。

第一陣の受付を終了して、暫く経った頃、

「おはよ、ミサキさん、店長」

チームメイトのカムイ君が来店した。

「おはようございます、カムイ君」
「おはよ」

私は何時ものように挨拶する。
でも、

「ミサキさん、何か元気無いっすね」

表情に出てたのか、それとも雰囲気かは分からないけれど、
カムイ君にばれるなんて、はぁ〜重傷だ、私。

「ううん、大丈夫」

平静を装って、カムイ君の受付を済ました。
今日は人数制限が無い自由なファイトを楽しむ大会、ってシンさんは言っていた。


その時だった、見せのドアが開いてアイチが来た。

当たり前だけど突然だったから、私もカムイ君も目が点になって、周りのファイトの歓声が上がるまで動けなかった。


アイチは何が起こっているか分からない感じ。
仕方が無いよね、今日の事は知らなかっただろうし。

「あの、その・・・」

何か言いたそうだった、内容は何となく分かるけど。
でもシンさんが明るく振舞って、大会参加を勧めてくれた。

受付して(途中、岸田が横入りしたけど)、
私も参加してたけど、アイチは暫くファイトをしないで見ているだけだった。

この間までの自分を思って遠慮してるのかも。


そうしたら、自分のを忘れて構築済みを借りて参加していた森川がアイチを指名した。
煩いし、直ぐ調子に乗るけど、こういう時は助かる、かも。


結果は、謎の絶好調を見せる森川が勝ったけど、
負けたアイチは、何時も通りに笑顔で負けを認めた。

離れて見守ってるエミちゃんも、元に戻った姿を見て安心したみたい。


すると、ファイトを終えたアイチが、

「ごめんなさい!僕、みんなに失礼な態度取って・・・」

これでもかってぐらい頭を下げて謝ってきた。

やめてよ、こんなになるまで何も出来なかった私達にだって悪いのに。


でも、シンさんが言ってくれた。

「今日大切なのは、楽しむ事ですよ」

これまでの事なんか気にしない、寧ろ忘れて今日は楽しんで欲しいって。


ただ、ちょっとだけ私のワガママをさせて欲しい。

アイチとファイトしたがっていたカムイ君には申し訳ないけど、アイチを連れて私は店を出た。

暫くお店をシンさんに任せて、私達が向った場所。



そこは、私とアイチが恋人同士になった公園。

告白しあった時とベンチに一緒に座る。
不思議と、この時は誰もいなかった。

お互い黙ってたけど、手は確り握ってる、これが私達が今でも愛し合ってる証拠、

・・・って、何恥ずかしい台詞思い浮かべてんだろ、私////!

で、でも、沈黙を破ったのは、私だった。


「ごめん」
「っ!どうして、謝るの?」

私の謝罪の言葉にアイチは戸惑ってる。
でも、私は言わずにはいられなかった。

「私は、何も出来なかったから」

ただ見てるだけ、手を差し伸べる事も出来なかった。


「そんな事、ないよ」

繋いでいる手が、アイチの両手で包まれる。
私を見詰める目は、潤んでいて申し訳なさが感じられる。

「ミサキさんは、ううん、ミサキは僕を待っててくれた。こんな・・・ヒドイ事をした僕をっ」
「違う!アイチは悪くないっ・・・私は、信じてたからっ」

アイチの手を解いて、私は抱き寄せた。
前は、毎日のようにしていたこのハグも、あの時から全然出来なかった。

「ミサキっ・・・ごめん、ね」

肩に顔を埋めるアイチ、震えてるから泣いてるのが分かる。
私は、背中を何度も撫でる、もういいよ、大丈夫だよ、って。

もしかしたら私は、アイチに泣いて欲しかったのかもしれない。
何時も私が自分の事で泣いて、アイチに頼ってる。

だから、今度はアイチが辛い時に泣いて欲しい、って。


アイチが落ち着いた所を見計らって、本当に言いたい事を私は口にした。


「お帰り」


私の所に、お帰りなさい


「・・・ただいま」


愛しい私のアイチ


私達は体を離して見詰め合う。

他に人がいないから、ううん、いても雰囲気できっとする。

次第に近づいて、お互いの距離が再びゼロになる。


数週間振りのキスは、涙が出るほど嬉しかった。



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