ヴァンガード短編

□もう止まらない
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先に浴槽に浸かるアイチ。

露天風呂ではないが、それでもガラス張りの大きな壁からは夜空が見える。
浴槽も、2人で使うには大きすぎるほどの広さがある。

だが、そのどれもアイチの意識には入ってこない。

『ミサキさんと、一緒のお風呂・・・』

そのことで頭が一杯だった。

そして、今夜の事も。


ガラガラとスライドドアが開く音がして、体が跳ねた。

「アイチ」

呼ばれて、恐る恐る振り返ると、
ミサキがタオル1枚で体を隠して立っていた。
水着とは違う肌の露出が、とても色っぽく見えた。

「体、流してあげる」
「えっ・・・とっ」

どうしようかと困惑していると、

「・・・ダメ?」

目を潤ませて懇願してきた。

アイチに断れるわけが無かった。


洗い場で、椅子に座るアイチの後ろで膝立ちするミサキ。

『何か、新婚みたい』

今の気分を実際の言葉にしたい所だが、アイチが慌てふためくのが目に見えているのでここは控える。

タオルにボディーソープをつけて泡立て、丁寧にアイチの背中を洗い始める。

「痛くない?」
「大丈夫、丁度いいです」

良かった、と微笑む。
だが、何かが目に入り、洗う手を止めた。
見間違いかと思い、その箇所の泡を取り除く。

「アイチ・・・これっ」
「え?・・・あっ」

見られたのが何なのか、アイチには分かった。

右肩甲骨と背骨の間、人為的な傷痕がある。
パッと見たら分からない程だが、確かにある。

その原因は、言わなくても分かる。
アイチは苛められていた時期がある、その時の物。

海でもプールでも上を着ていたのは、これの所為だった。

実際は同じような傷が前面にもある。


ミサキは、黙って洗うのを再開する。

背面を一通り洗い終え、泡を流すと、

「私が、守るから」

アイチを後から抱き締める。
肩に顔を埋め、胸を背中に押し付けるミサキ。

「アイチの全部を、私が守るから・・・」

苛められた事実は消えなくても、今、そして未来は変えられる。
ミサキの温もりと肌の柔らかさがそれを伝えてくれる。

彼女の腕に触れるアイチ。

「ありがとう、ミサキさん。でも、守られるばっかりは嫌だから、僕もミサキさんを守るよ」
「うん、嬉しい」

アイチとミサキは、体勢を崩さずにキスをする。
昼間のより深く、濃厚に交わした。

約束を結ぶように。



洗い終えた2人は、浴槽に浸かっている。
ミサキは長い髪を束ねて折って纏めている。

「・・・アイチ、私達この後・・・」

この後2人がすることを考えると、お湯の温度と関係なく体が熱くなる。

「ミサキさん・・・怖い、ですか?」

不安と思ったのか、アイチは尋ねると、グッと引き寄せられ、抱き込まれる。

目の前にミサキの胸、幸いにもお湯が乳白色である為全ては見えないが、それでも何も纏っていないそれがある。

「そんな事無い・・・寧ろ、私が止まらなくなって、いやらしくなって・・・アイチに嫌われる方が怖い」

ずっと求めていた、アイチの心も体も。
自分の欲望を解放した姿を見られて、変に思われる方がミサキは怖かった。

ミサキの背にアイチの腕が回される。

「どんなミサキさんだって、僕は大好きです。それに、僕もきっと・・・止まらないから」

本当なら、今すぐにでもミサキの胸に触れたいアイチ、それを押しとどめている。


2人共、ずっと溜め込んでいる欲望、

合宿終わりに気付き告げて、

今日今夜、解き放つ。


だから、何も躊躇う事も恐れる事もない。
気持ちは一緒なのだから。

「ありがと、アイチ・・・出ようか」
「はい」



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