ヴァンガード短編

□もう止まらない
2ページ/9ページ


〜もう止まらない〜



強化合宿から数日後のカードキャピタル。

「なぁ、アイチお兄さんとミサキさん、何やってんだ?」

奥のラウンジの椅子に座るカムイは、レジ近くにいる2人が気になって仕方が無かった。
ずぅ〜っと、並んでカレンダーと睨めっこしているのだから。

「まぁ、色々あるんだよ、あいつ等にも」

隣のテーブル席についている三和は、何となく理解している様だ。


アイチとミサキ、2人は恋人同士だ。
相思相愛、身長は逆転しているがお似合いのカップルだ。
先の合宿の後、夏休み中にデートをする約束をした。
問題は無い、寧ろ自然。

だが、

「ミサキさん、予定どうですか?」
「分からない。てか、まともな休みなんて定休日ぐらいしかっ」

全く日程が立ってなかった。
2人は、出来れば丸1日、良くて翌日の昼までの日程を組みたいと思っている。

アイチは中学生最後の夏休み、家族関係の予定以外は基本フリー。

問題があるのはミサキの方、
この店の娘であるがアルバイト店員、そうそう休みは取れない。
店長で叔父のシンを説得すれば何とかなるが、我がままを言う様で気が引ける。

何かちゃんとした切欠があれば堂々とデートできるのだが。

そんな感じで、2人でう〜ん、と悩んでいる訳である。

と、外出していたシンが帰ってきた。

「たっだいま〜」
「おかえり、シンさん・・・・・・あのさぁ」

もう思い切って言ってみようと思ったミサキ。
アイチとデートしたいから、休みをくれと。

すると、

「実は知り合いからこんなの貰ったんですよ♪」

じゃ〜ん!と取り出したのは、2枚のチケット。
ササッと三和がやってきて覗き込む。


「う〜ん、なになに?スパリゾートホテル、ペア1泊2日招待券・・・だと?!」

驚く三和だが、もっと驚いているのはミサキとアイチ。

「知り合いが福引で当てたんですが、どうやら日程が合わない様なので。どうです、ミサキ?」
「・・・い、いいの?」

差し出されたチケットを手にする。

「構いませんよ、貰っても誰かが使わないと勿体ないですし。アイチ君と行って来ると良いですよ」

うん、と頷くシンを見て、ミサキは目を輝かせてアイチへ振り向く。

「アイチ・・・い、行く?」

一応聞いてみるが、返ってくる答えは決まっている。

「はい!」

勿論、肯定だ。



旅行当日、

「いい、アイチ!ちゃんと朝起きるのよ!ミサキお姉ちゃんに迷惑かけちゃダメだからね!!」

カードキャピタルまで見送りに来たエミ。
アイチが心配なのだろう、ミサキへの迷惑は半分は建前である。

「大丈夫、アイチはちゃんと私が面倒見るから」
「それじゃあ、エミ。行ってくるね」

2人は鞄を持ち、駅に向っていった。
ピッタリ寄り添って。


「心配か?」

動こうとしないエミを見かねた三和が声をかける。

「ちょっと、です」

口では言うものの、本心は1日家に兄がいないだけで不安で仕方が無い。
無自覚なブラコン、それがエミという少女なのだ。

「大丈夫だって。自分の兄貴を信じないでどうすんだ?」

ポンポンと頭を撫でる三和。
ニッ、と笑顔を見せる。

「・・・はい」

心配な色を残しつつ答え、エミは店の中に入っていった。

『ま、兄貴離れの一環と思えばいいか』

心の中で苦笑して続く三和だった。



目的のホテルまでは、駅から直通のバスがあり、難なく行く事が出来る。

アイチが窓際、隣にミサキが座る。
乗って数分、ソワソワしだすアイチ。

「どうしたの?」
「えっと・・・ミサキさんと明日まで2人きりって思うと、緊張しちゃって」

頬を赤らめて俯くアイチを見て、照れてしまう。

「・・・大丈夫」

アイチの手を握る。

「私も緊張してる。でも、それ以上に楽しみだから。だから、楽しもうよ」
「ミサキさん・・・はい!」

手から伝わる温もりで安心して、ミサキとの距離を詰める。
ドキッとしたミサキだが、受け入れる。

2人を乗せて、バスは進んでいった。



目的のホテルは、関東でも有数の温泉地にある。

スパリゾートと銘打っているので、かなり人気があるが夏よりも冬に一番客が増えるので、この季節ちょっとした穴場だったりする。
で、このホテルの最大の魅力は、豊富な種類の大浴場と、温水プールだ。
しかも、そのプールは有名テーマパーク内にある様な、かなり大規模なもの。
それがホテルに隣接し、ホテル内から直接行けるのだ。


チェックインしたミサキとアイチ。
ミサキ名義なので、戸倉様と呼ばれた時、

『何時か僕が・・・』

もっと大人になった時には自分名義で連れてきてあげよう、と密かに決意するアイチだった。

案内された部屋は和室で、見晴らしもよく、テラスに備え付けの露天風呂もある。
仲居さんがいるため口にはしないが、

『シンさん、よく貰えたね、こんな豪華な部屋っ』
『僕達、招待券無しで行けるの後何年先なんだろ』

と諸々感想を心の中でしていた。

仲居さんがいなくなり、2人になる。

「いい眺めですね」

アイチは窓から見える景色に見入っていた。

それをいい事に、ミサキは気配を消して近づき、

「うわっ!!・・・ミサキ、さん?」

ギュゥ〜と抱きついた。

「今日、1回目のハグだね」
「えっと、今日は何回もします、よね?数えてもっ」
「そう、いっぱいする。それに、キスも、ね」

アイチの顔だけ向けさせ、見詰め合う。
近づく距離、止める者は誰もいない。


今日、1回目のキス。
触れ合う感触、温もりが心地いい。

その中で2人は、夜のことを考えようとはしなかった。
今考えると、きっとそれまでまともに居られないと分かっているから。


.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ