ヴァンガード短編

□「誰よりも、あなたの為に」
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「・・・何があったの?」
「えっ」
「さっきの頭痛、普通じゃないだろ?」

顔を上げたミサキは、不安の色を隠せていない。

スイコに言われたからではない、彼女自身がアイチを心から心配しているのだ。


「・・・また・・・あの感覚になったんです」

話すアイチの声が震えている。

アイチもまた不安だったのだ。


「カードの声が?」
「今度は・・・僕があの場に、本当に惑星クレイにいるみたいに」

ミサキの想像を、イメージを超えた答えに驚く。

「足が水に浸かっている感覚も、プレジャーズが飛び込んだ水しぶきも・・・」

ほんの一瞬、一時的だがアイチはあの場にいた。


「・・・ミサキさんっ、僕・・・僕はっ」

普通では考えられない現象が起こった。

それは、自分は普通ではない、と思わせてしまう。


「アンタはアイチだ。私の、大好きなアイチだ」

だから、ミサキはアイチを抱き締める。

普通かどうかなど関係ない、ここにいる少年が先導アイチである事に変わりはない。


「私はアイチの味方だから。何があっても」
「ミサキさん・・・っ」

ミサキの胸に顔を埋めるアイチ。

甘えるように、不安を消すように縋り付く。


「僕・・・変じゃない?・・・僕はっ」
「大丈夫だ、大丈夫だよ、アイチ」

彼の不安を取り除こうと、ミサキは頭を撫で、大丈夫と何度も言い続けた。



2人はベットに座ると、アイチはミサキの膝に頭を乗せ横向きになった。

やはり頭痛がする程の事だったのだ、直に寝息を立てて寝てしまった。


『・・・どうして、アイチなんだ』

アイチは、弱くて、優しくて、そんな大きなモノを背負える人間じゃない。

『普通じゃないのは、私だけでいい』

常人の数倍の記憶量を持つ自分、異能の重圧は自分だけでいい。

なのに、よりによって同じ重みを背負って欲しくないアイチが背負ってしまった。


「アイチを、私から取らないでっ」

愛しい人の髪を撫でながら、ミサキは願う。


カード達、どうかアイチをアイチのままにして欲しい。


弱いアイチ、優しいアイチのままにして。


知らない存在に、手の届かない存在にしないで。



「アイチは・・・私が守るっ」

そして誓う、守ると。


この記憶能力が役に立つのなら、喜んで使おう。


それも、他の為ではない。


誰よりも、アイチの為に使おう。



「アイチ・・・愛してる」


自分の膝に身をゆだねるアイチの髪を撫でながら、ミサキは愛を呟いた。


30分後、アイチが目覚めるまでミサキは見詰め続けた。
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