ヴァンガード短編

□「誰よりも、あなたの為に」
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3人が店の前を横切ると、


「聞いたぞ、俺のコーリンちゃんに会いに行くって?」

よく聞き慣れた、それでいてこの場で聞きたくない様な声が聞こえた。

3人同時に振り返ると、


「仕方ねぇ、ウルトラレアファンクラブ会員を代表して・・・俺が連れてってやるぜぇ!!」

コーリン大好き、グレード3馬鹿、マケミこと、森川カツミがいた。会員証を見せ付けながら。


全員、苦笑する、呆れる、視線を避ける、と言う態度を取らざる終えなかった。





カードショップ『PSY』があるとされている駅ビルに到着した一行。

森川に案内してもらっているが、


「あれ?どこだったっけ?」

店の場所を忘れていた。


「案内になってねぇじゃん」

即カムイに突っ込まれる。


「うるへぇな!直に見つけてやらぁ!俺のコーリンちゃんを愛する心があれば、絶対に見つけられるんだ・・・コーリンちゃ〜ん!!待っててねぇ!!」

中学3年らしからぬ大声を上げて走っていく森川。



「重症ね、いろんな意味で」

ミサキの鋭い言葉、本人がいたら突き刺さっていただろう。

尤も、ミサキ自身もアイチに対して重症(ゾッコン)ではある。



「アイチお兄さん、場所覚えてないんですか?」

こうなると、3人の中で唯一行った事があるアイチが頼りになる。


「う〜〜ん、思い出そうとしてるんだけど・・・っ!!」

必死に記憶を辿っていた時、真横からフワッと風が吹いた。


すると、


「・・・あった」


真横に、L字に曲がる通路、その正面に『PYS』と書かれた看板があった。

あまりにも突然、

あまりにも不自然かつ自然、

あまりにもあっさり見つかった所為か、驚くのも忘れてしまった。



「へぇ〜ここがウルトラレアがいる」
「カードショップ、PSY」

カムイとミサキが其々言葉にすると、3人は極普通の入口の自動ドアを通る。


と、ギリギリで戻ってきた森川、


「ここにあったのか、だ〜と思ったぜ」

負け惜しみに近い台詞を言うが、何秒経ってもドアは開く気配がない。

まるで森川の入店を拒むように。

「お〜い、みんな!開けろって!!コーリンちゃんに会わせろ、いや会わせて!!」

必死の叫びも、無駄に終わるのだった。




一方入店したアイチ達。

薄暗い明かりと、天井の星空の絵、並んだレアカードの立体映像発生器が印象的な店内。


「あ、森川君待たなくて良いのかな?」

森川の存在を、いち早く思い出したアイチ。

「いいんじゃない?」
「そうそう。子供じゃないんだし」

2人とも全く気に留めていない為、放置する事に。

で、

「お〜すげぇ〜!レアカードが揃ってる〜!!」

今しがた森川を子供が云々言っていたカムイが、それこそ子供らしくレアカードを見に駆け寄る。


アイチとミサキは、カムイの側に行きながら、店内を見回し、誰もいない事に気付く。


唯一、隅に置かれたレアカードを眺めている人だけがいた。



「あ、あの〜こんにちはっ」

アイチが躊躇いがちに挨拶する。


振り返ったその人は、赤いロングヘアーに黒いコートを着た男だった。


「あの、あなたは?」
「・・・僕は・・・」

アイチが尋ねると、数秒間空けて、


「・・・・・・店員ではありません」

そう答えた。

いやそんな事を聞いているのではない、と言った微妙な空気が支配する。

男は表情1つ変えていないが。


「あの、そうじゃなくてっ」
「ああ〜お客でもありません」

それも違う、とアイチは困り果て、ミサキはもう目にヤル気がなくなっている。


「分かった!じゃあ、ウルトラレアはっ」
「ウルトラレアでもありません」

今度はカムイが言い切る前に、見当違いの答えを述べた。


アイチ達が完全に引いていると、


「ようこそ、カードショップPSYへ」

何時の間にかウルトラレア3人が現れていた。


姉妹の次女、黄色いロングヘアーの少女“コーリン”がアイチに気付く。

「どうしてアイツが?」
「私が招待したの」
「え?でも三人で決めたのはっ」

反論するコーリンに、スイコが笑顔を送ると前に出た。


「2人共よく来てくれたわね。先導アイチ君、そして“雀ヶ森レン”君」

男の“雀ヶ森(すずがもり)レン”の名が呼ばれた時、カムイの表情が変わった。


「雀ヶ森レン?!それって、あの雀ヶ森レンか?!」
「そう、前回のヴァンガードファイト全国大会で、初出場ながら圧倒的強さで優勝したチーム『フーファイター』のリーダー♪」

姉妹の末っ子、オレンジの髪を左右ロールさせている少女“レッカ”が説明した。


カムイは名前は聞いた事はあったらしいが、まさかこんなボーっとした男とは思わなかったらしい。


次にコーリンが前に出る。

「早速だけど、雀ヶ森レン。約束通り、ヴァンガードファイトの実力を見せてもらうわ」
「っ・・・ヴァンガードファイト・・・ふっ」

レンの雰囲気が変わり、移転して鋭くなる。

その変化にアイチがいち早く気付いた。


「僕と戦おうと言うのですね?」
「ええ」

レンはウルトラレアを見渡し、

「良いですよ。あなた方にはその“資格”があるようだ」

ファイトの挑戦を受けた。


カムイはこの場で全国チャンピオンの実力を見れるとあって興奮しているが、アイチはそうでもない様子。


「使うのはこのデッキよ」

コーリンが近づいて渡し、受け取ったレンが中身を確認する。


「ふ〜ん、女性ユニットばかりのデッキですか。確かにプレイヤーの手腕が問われそうだ」


レンがカードを見詰めていると、アイチの身に不可解な現象が起こる。



光に包まれ、晴れるとそこは外、それこそ無人の大地で周囲には水場がある。

空は青いが、月が以上に巨大に見えている。


「ここは?!」

途方にくれていると、後方の水場から人影らしいものが3体飛び出した。

アイチの近くの水場にそれらが落ち、水しぶきが掛かる。



ここで、アイチが目を開けると、PSYの中、飛ばされる前と同じ場所にいた。

ほんの数秒の出来事、周りは何も変わらず、

誰も、ミサキも気付いていない事から、アイチ自身はここにいたことになる。


そんな事が起こった一方で、レンは1枚を手にし、

「君が切り札になりそうだね」

と呟いた。


その様子を見ていた姉妹達は、

「間違いないわね」
「ええ」
「うん」

何かを知っている様子だった。
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