ヴァンガード短編

□「誰よりも、あなたの為に」
3ページ/8ページ


届いたメールの相手はカムイ。


―ミサキさん、見つかりましたか?先に車に戻ってます―


そう言えば、いなくなったミサキを探しに来た事を思い出した。

「行きましょうか?」
「そうだね。ちょっと惜しいけどっ」

まだ2人だけでいたいミサキだったが、これ以上迷惑をかけるわけにも行かない。


アイチとミサキは手を繋いで、会場を後にした。



駐車場に向かうと、


「アイチお兄さ〜ん!ミサキさ〜ん!」

カムイが車から出て手を振っていた。


全員乗車して出発する。


「そう言えばお兄さん、どうしてソウルセイバー・ドラゴンをデッキに入れたんですか?」
「あ、ごめんね、カムイ君。折角アドバイスして止めてくれたのに」
「それは良いんですけど、やっぱり気になりますよ」
「そうだね・・・使いたかった、からかな」

アイチが返答に悩み、言葉が詰まる。

まさかカードから声がした感覚があったから、など言える訳が無い。


「いいじゃないですか、新しいカードは誰だって使ってみたいものですよ」

シンが運転しながらフォローする。

お陰でそれとなくカムイが納得した。


だが、助手席から見ていたミサキは見逃さなかった。


アイチが一瞬下を向いて表情を曇らせた事を。


『・・・何かあったの?』


この時はまだ深く考えてはいなかった。





その日の夜、戸倉家。

自室のベットに入って、いざ寝ようとしているミサキ。

すると、枕元に置いてある携帯から着信音が流れる。

「アイチ?」

メロディからアイチと分かる。

こんな時間にと不審に思うが、話が出来る事は嬉しいと電話に出る。


「もしもし、アイチ?」
『・・・ミサキさん』
「アイチ、どうしたの?」

反応が遅いアイチが心配になる。


『その・・・聞いてもらいたい事があって、もしこれから寝るんだったらいいんですけどっ』
「大丈夫だから、話してみて」

本当は眠かったが、その気も無くなった。

寝るより、アイチの悩みを聞く事のほうが先決だ。



アイチは今日の決勝戦での出来事を話した。


不思議な感覚が元でソウルセイバーをデッキに加えた事、

そのソウルセイバーの声が聞こえた事、

帰りにカムイに尋ねられた時、信じてもらえないと思った事、


それら全てを話した。

友人にも、家族にも話せなかった事を、恋人であるミサキに。



話し終えたアイチ。

「・・・すみません、聞いてもらって。変ですよね、カードから声なんて」

ベットに座って、愛想笑いする。


『信じるよ、アイチ』

ミサキの、真剣で真っ直ぐな声が、アイチの無理な笑みを崩した。

『アイチが私の事を信じてくれてる様に』
「・・・ありがとう、ございますっ」

実際に2人でいたら、きっとアイチは縋り付いていただろう。

ミサキはそれを受け入れていただろう。



アイチの話を冷静に分析したミサキは、何かに気付いた。

「アイチ、体調は大丈夫なの?」
『え?あ、はい。何とも』
「本当かい?」
『大丈夫ですよ。嘘言っても意味ないですし、ミサキさんならホントの事言いますよ』

でないと心配するでしょ、と付け加えられる。

とは言え、カードの声が聞こえる、これが重大な事なら反動で何かが起こってもおかしくはない。


「・・・分かったよ。気をつけるんだよ」
『はい。ありがとうございました、気持ちが軽くなりました』
「普段私の方が愚痴を聞いてもらってるんだ。偶には私が聞き役になるよ」

電話越しで笑い合う恋人達。


『それじゃあ、お休みなさい、ミサキさん』
「お休み、アイチ」

就寝時の挨拶をして、ミサキは電話を切った。


「アイチ・・・」

携帯を抱き締め、離れた場所にいる彼を思う。

帰りの際の僅かな変化に気付いてはいたが、早く聞いてあげれば良かったと少し後悔する。


「カードの声、か・・・・・・あんた達は、何がしたいんだい?」

机の上にある宝箱―亡き父が作ったデッキが入った箱―に目を向け、言葉をかける。

返ってくる筈はない、分かっているが口に出てしまう。

「アイチは繊細なんだ。変な事するんじゃないよ」

忠告する意味はないが、せずに入られなかった。


『アイチは私が守るんだ』

アイチへの想いを改めて、ミサキは横になった。


出来る事なら、アイチと同じ夢を、と願って。








数日後のカードキャピタル


アイチとカムイがファイトを終えた時、


「ウルトラレアに会いたい?」
「はい!ウルトラレアは、アイチお兄さんとヴァンガードファイトして勝ったって聞きました」

カムイが突如話題を持ち上げた。


アイチが初めてカードショップ『PYS』に訪れた時、三姉妹の次女コーリンとファイトした。

その際、負けはしたが善戦したアイチにスイコが『騎士王アルフレッド』を渡した。

そんな経緯から、アイチは何かと彼女らに縁があった。



「そいつ等とファイトしたら、全国大会への強化になりますよ、きっと」

カムイの考えは、単純に自己強化であり深い意味はない。


と、アイチは表彰式の際に言われた事を思い出し、同時にレジにいるミサキへのアイコンタクトを送る。


本を読みながら聞く耳を立てていたミサキ。

『別に良いよ、行って来れば』

と言う意図の視線を送る、本音は別として。


アイチは軽く頷くと、カムイに答えた。

「うん、行こうか」
「おっし!そうと決まったら、チームQ4全員集合!!」

意気揚々と拳を立てた。


が、

「ふん、そんなカードショップに興味はない」

ラウンジにいた櫂が席を立って店から出て行こうとする。


「お、おい、櫂!・・・じゃ、じゃあな!」

慌てて一緒にいた親友の三和が追いかけていった。


「何だアイツ。ほっときましょう」

櫂のことは諦めたカムイは、次にミサキに目を向けた。


「・・・行かない」

そっぽを向いて断るミサキ。


「お前ぇ!耕運機とか高級品とかってもんがねえのか?!」
「こう、こう・・・“向上心”かな?」

熟語の間違えをアイチに指摘され、顔を真っ赤にするカムイ。


「部屋に忘れてきた」

素っ気無い態度を取るミサキだが、


『人の気も知らないで、誰が好んでアイチを狙ってる連中の所になんかっ』

本音は、恋する乙女の嫉妬だった。


「そう言わず、行って来たらどうですか?」

苦笑するシンだったが、アイチ達に同行するよう促す。

「店の手伝いはどうするの?」

全うな理由で逃れようとしたが、


「なら業務命令です。ライバル店の調査に行って来て下さい」

と、職権を行使され、渋々同行することになった。


『ま、傍にいて監視すればいいか』

ミサキなりに自己解決させたようだ。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ