ヴァンガード短編
□「誰よりも、あなたの為に」
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「誰よりも、あなたの為に」
地区大会決勝戦、最終対決。
チーム『男前』の大将“大文字ゴウキ”と、チーム『Q4』の大将“先導アイチ”との対決。
最終局面、アイチは不思議な感覚を感じ取った。
デッキから、カードから声が聞こえるような、形容し難い感覚。
それに導かれるように、ロイヤルパラディンの女神、聖龍“ソウルセイバー・ドラゴン”を呼び出す。
すると形勢が傾き、大幅に強化されたロイヤルパラディン達。
聖騎士達の猛攻を必死に耐えるゴウキの“グランブルー”海賊団。
耐え切ったかに見えたが、アイチがスタンドトリガーを得た為、攻撃し終えた“沈黙の騎士ギャラティン”が立ち上がる。
ゴウキの手札はなし、リアサークルのグレード2もいない為、インターセプトによる防御も出来ない。
打つ手なし、ゴウキは覚悟を決め、ノーガードを高々に宣言した。
「ギャラティン、魔の海域の王バスカークに誇りある敗北を!」
アイチの最後の攻撃、
跳び上がったギャラティンの一刀が、ソウルセイバーが見守る中、バスカークを切り裂く。
ゴウキのダメージチェック、ヒールトリガーは出なかった。
勝利したのはアイチ、チームQ4である。
カムイが感極まってアイチに抱きついて喜び、シンが健闘を称える。
「アイチ、やるじゃん・・・・・・ね」
ミサキも賞賛を送ると隣―と言っても間がかなり空いている―にいる櫂に同意を求める。
が、櫂は先程ソウルセイバーがライドした時のアイチを思い返す。
まるで櫂もあの感覚を感じた様に。
しかし、
「いや、まさかな。ふん・・・くだらん」
思い違いと判断、失笑して呟いた。
それがアイチへの悪口に聞こえたカムイが抗議しようとし、シンが止める。
そんな中、
『コイツ・・・いい加減アイチを認めてやっても良いのにっ』
ミサキは心の中で悪態をついていた。
櫂を憧れのファイターとして慕っているアイチ、だが本人は素っ気無い態度を取り続けている。
ミサキは、そんな櫂の後を追い続けているアイチが少し不憫に思えていた。
そして、時折アイチの視線を独占する櫂に、嫉妬心さえ抱いていた。
何はともあれ、途中ゴウキの妹のナギサが、カムイに強引に求婚する騒動はあったものの、無事に表彰式が行われた。
人気急上昇中の新人アイドル“ウルトラレア”の3姉妹が、Q4の4人に順番にメダルを授与する。
最後に、アイチに水色の髪の長女“スイコ”が渡す際、顔を彼の真横に近づけて、
「今度、またショップにいらっしゃい」
と、彼女達の店、カードショップ「PSY(サイ)」へ招く言葉をかけた。
アイチが頬を染める様子を見たミサキは、
『アイチっ!!!』
内心で、絶叫した。
閉会後、応援に来ていたエミや森川達は先に帰り、アイチ達は休憩後にシンのワゴンで帰ることになっている。
テラスの円卓で一息付いているチーム・Q4。
「アレ?ミサキさんは?」
「おや、いませんねぇ?」
カムイとシンがミサキの姿が見えないことに気づいた。
櫂は我解さずの状態。
「僕、探してきます」
アイチが席を立って、探しに向かう。
数分歩き回ると、施設の一角、背凭れの無い椅子に座るミサキがいた。
「ミサキさん、ここにいたんですか」
アイチが声をかけると、ミサキは背を向けて座りなおした。
「ミサキ、さん?」
不審に思い更に近づいて声をかけると、
「・・・アンタは、ああいう女の方が良いんだろ?!」
ミサキが珍しく声を張り上げた。
「あんなチャラチャラした格好した連中に顔赤くして!!」
アイチは、先程の自分とスイコとのやり取りをミサキが見てこうなったのだと、分かった。
1度目を瞑り、足を進め、
「私なんてっ」
「ミサキさん」
アイチは後から抱き締め、耳元で名前を呼んだ。
普段中々聞けない、男を感じるアイチの声に、思わずドキッとするミサキ。
「僕の好きな人はミサキさんだけですよ」
「そ、そんな言い訳したってっ」
言葉による抵抗を試みようとするミサキだが、顔を向けられアイチにキスされた事で無駄に終わる。
触れるだけでは終わらない、熱い熱いキス。
彼女のプライドなのか、最後の抵抗として押し返そうとするミサキ。
だが、頭を後から押えられ、本人は座っている体勢なので上手く力が出でないため、諦めることにした。
それを察したアイチが、ミサキの頭を撫でると、互いの空いた手を握り合う。
歯列を押し開け、ミサキの口にアイチの舌が進入する。
互いに舌を出し入れを繰り返し、絡めあう。
ざらついた感触が心地よい。
2分程の長いキスを終えると、ミサキは体の力が抜けたのか、アイチに身を預ける。
「・・・卑怯だ。あんな、キスされたら・・・何も言えない」
「あははっ・・・スイコさんとは前に会った事があって、それに僕も男だから、綺麗な人があんな近くに来たら驚きますよ。勿論、ミサキさんの方がずっと美人ですよ」
最後の台詞で顔を真っ赤にしたミサキ。
「はうっ////・・・ば、バカっ」
アイチの胸に顔を埋めて見られないようにする。
「でも、油断しちゃダメだ!アイチは優しいから、他の女が気に入る事だってある!」
「そんなことっ」
「絶対ある!!」
強気な事を言っても、上目遣いであるが故に迫力に欠けた。
寧ろ可愛げの方が強く出ている事が可笑しくなって、苦笑したアイチ。
「な、何よ?!」
「何でも無いです。ミサキさん・・・今日は、会いに行ってたんですよね?」
ミサキの頭を撫でながら、アイチは優しく問う。
今日の地区大会にミサキは遅れて来た。
その為、彼女がファイトする事は無かった。
「・・・うん、お父さんとお母さんに話してきた」
理由は、今日が亡くなった両親の命日だからだ。
この事を知っているのは、叔父のシンと恋人であるアイチだけ。
「最近の事、アイチのことも話してきた。見守ってって」
「そのお陰で、勝てた気がします」
少し強く抱き締めるアイチ。
「頑張ったね、アイチ」
「ありがとう、ミサキさん」
ようやく言いたい事が言えたミサキは、ホッとした様子。
すると、アイチの携帯が鳴った。
2人だけの時間を邪魔され、ムスッとするミサキ。