ヴァンガード短編

□「記憶の先にあるもの」
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「ダメージチェック」

再びアイチが確認、グレード0の“ぎろ”。
これもトリガーではない。

このターン、アイチは2ダメージを受けた。


ここで、

「なあ、何で店員の姉ちゃん、わざわざブーストしたんだ?パワーは勝ってるぜ」

グレード3馬鹿、マケミこと森川が、小声で井崎に質問する。


「いや、普通するだろ」

呆れている井崎。
その答えは、


「エンドフェイズ、ロゼンジはデッキに戻る」

自身の効果でデッキに戻ったロゼンジ。

ヒールトリガーであるが故に、戻るのは必然だった。


流石の森川も、ああ〜と納得した。



「終了だよ」


ミサキ、手札5枚、ダメージ0


『さあ、さっさとブラスター・ブレードを呼びな』

ミサキは次のアイチの手を読んでいる。

と言うよりは、今のアイチの布陣がほぼ昨日と同じだからだ。



「僕のスタンドアンドドロー」

レストしていたばーくがるがスタンド(縦になる)し、1枚引く。


「・・・ばーくがるのスキル発動、デッキから“ふろうがる”をコール」

アイチはライドフェイズを飛ばし、ばーくがるの効果でデッキからピンク色のハイドッグ“ふろうがる”を、後衛中央に呼んだ。


「そして、リューのスキル発動。ダメージを1枚カウンターブラストして・・・」

ダメージゾーンのぎろが裏返し(カウンターブラスト)され、


「リュー、ばーくがる、ふろうがるの3枚をソウルに置き、デッキから“ブラスター・ブレード”をスペリオルライド!」

3枚とういんがるの4枚が重なり、

ロイヤルパラディンの英雄騎士“ブラスター・ブレード”をヴァンガードサークルに呼び出した。



誰もがアイチの攻撃が始まる、そう確信していた。


だが、


「・・・終了です」


アイチはこれ以上のコールもせず、攻撃もせずにターンを終えた。



「っ!!何のつもり?!!」

予想外、いやありえないといった表情のミサキ。



「ミサキさん・・・このファイト、ただ戦って、ただ勝敗を決めるつもりはありません」

アイチは真っ直ぐな視線で、ミサキを見詰める。


その目が、自分の心の奥まで見透かされているようで。


「・・・ふざけるな・・・ふざけるな!!」

ミサキは声を張り上げた。

「私に同情してるつもり?!生意気なんだよ!!」

普段は絶対に見せない、怒りや悲しみ、様々な感情が入り交ざった表情を浮かべて。


「私のスタンドアンドドロー!!」

ミサキのターン、引いたカードを手札に加え、

「“メイデン・オブ・ライブラ”にライド!」

ピンク色の羽衣を纏う天使“メイデン・オブ・ライブラ”にライドした。


「ジェミニをバックへ!“真実を見つめる者”をコール!!」

ジェミニの前方に、黒い法衣を纏った長髪の男“真実を見つめる者”が現れる。


「ジェミニのブースト!真実を見つめる者で攻撃!」

ジェミニのパワー8000が加わり、見つめる者のパワーは14000に、

「更に見つめる者の効果!1枚をソウルブラストして、パワーを+3000!」

ヴァンガードのソウル1枚をドロップゾーンに置き、見つめる者はパワー17000にまでなった。


右手に溜めた魔力を放出、ブラスター・ブレードに直撃する。


「ダメージチェック」

アイチのダメージゾーンに、グレード1“湖の巫女リアン”が置かれる。


「ライブラで攻撃!!」

ライブラとブラスターの攻撃力は互角、攻撃は通る。



ミサキがライドしたライブラの天秤に魔力が蓄積される。

放とうと向けた時、


「何が、辛いんですか?」

アイチがライドしたブラスターが、確かにそう問うた。


「・・・アンタには関係ない!!」

ライブラの放った閃光は、

剣を完全に下げた無抵抗のブラスターを飲み込んだ。


「トリガーチェック!!」

引いたのはグレード2の“サイレント・トム”、またしてもトリガーではなかった。

『なんでっ!!』

これがミサキの苛立ちを増大させる。


アイチの方も、今受けたダメージチェック、トリガーユニットでは無かった。



「私に関わるな!!何も知らないアンタが!!」

カードを持っていない手でプレイ台を叩くミサキ。

昨日も同じことをした、その時アイチは少し怯えていた。


だが、


「知りません。僕はミサキさんじゃないから」

ミサキから視線を逸らすことは無かった。



「ミサキさんが何故記憶力が良くて、何に苦しんでいるか、僕は分からない」

アイチは悔いていた。

昨日の自分、事情を知らず、仕方なかったのかもしれない。

それでも、ミサキを傷つけた事に変わりは無く、アイチは自分が嫌になった。


「でも、これだけは分かります。このまま苦しんでいるままだと・・・きっと、もっと苦しくなる」

嘗ての自分、毎日のように苛められ、何もかもが嫌になったあの時。

同じではなくても、似た苦しみを負っている人を放って置けない。



「僕のスタンドアンドドロー」

スタンドさせるユニットも無いアイチ、ダメージは4、後2点で敗北が決まる。


ドローを行い、


「終了です」


再び何もせずにターンを終えた。
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