ヴァンガード短編

□「記憶の先にあるもの」
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「記憶の先にあるもの」




朝、ミサキは部屋の窓から外を見ていた。


昨日は、あのまま帰ってしまった。

『もう一緒には闘えない』

自分がアイチ達に向かって言った一言。


今の自分はファイトをする度に思い出してしまう。


亡くなった自分の両親との悲しい別れを。


自分でも理解できないまま身に付けてしまった“直感像記憶(アイデテック・イメージ)”、覚えたくも無いのに、全てを覚えてしまう。


事情を知らず、ただ記憶力が凄いと言ったアイチ達は、決して悪くは無い。

でも、自分は嬉しくとも何とも無い。

あのまま居れば、きっと彼らに暴言を吐いていただろう。
そんな事も嫌だから去ったのだ。


『もういいんだ。私は、アイツ等とは関係ない』

そう自分に言い聞かせ、傍で寝ている猫の“店長代理”の体を撫でた。


すると、


「ミサキ〜!ちょっと降りてきてくださ〜い!!」

カードキャピタル店長で、叔父のシンの声が聞こえた。

時間は10時、今日は日曜だから開店は11時からだ。

準備を手伝って欲しいのだろうと思い、ミサキはパジャマから着替えて店長代理と共に部屋を出た。



一階のカードキャピタルに降りてきたミサキ。

「シンさん何?開店準備ぐらい1人でっ・・・っ!!」

ミサキの目に飛び込んできたのは、


「おはようございます、ミサキさん」

プレイ台にスタンバイしているアイチだった。

彼だけではない、アイチの傍らには妹のエミが、

後方には森川と井崎、

プレイ台の傍にシンとカムイ、

しまいには、昨日居なかった櫂と三和がラウンジの椅子に座っている。


「シンさん!一体どういうっ」
「まあまあ、ミサキ。落ち着いてください」

状況が理解できないミサキをなだめるシン。


「昨日は色々ありましたけど、一方的に止めると言われても納得いきませんよ、ミサキ」

昨日の自分の行動を指摘され、冷静になると納得せざる終えないミサキ。


「ここは1つ、もう一度アイチ君とファイトして、改めて決めてください。いいですね」

有無を言わせぬシンの言葉に、


「・・・分かったよ。さっさと終わらせる」

ミサキは渋々従うことにした。


プレイ台には、昨日自分が放置したデッキが置かれていた。

無言の空気に包まれたまま、対戦者2人はデッキをシャッフルする。



「ミサキさん、ファイトの前に1つお願いがあります」

ここでアイチが切り出した。

「先攻を、僕に譲ってください」

お願いとは、先攻をさせて欲しいと、ただそれだけだった。


「・・・良いよ、別に」

視線を合わさず、承諾したミサキ。

微かに、ありがとうございます、とアイチがお礼を言うのが聞こえた。



両者、ファーストヴァンガードを専用サークルに伏せ、デッキから5枚を引く。

任意の枚数デッキに戻し、同じ枚数引きなおす、通称“マリガン”を行う。


準備は整った。


「では、勝負開始!!」

シンの合図で、ファイトが開始される。


「「スタンド、アップ!ヴァンガード!!」」

伏せられていたファーストヴァンガード、


「“ばーくがる”!」

銀色のハイドッグ“ばーくがる”、


「“ロゼンジ・メイガス”」

菱形をデザインした法衣を纏う魔導師“ロゼンジ・メイガス”、が姿を現す。



2人のイメージによるファイトの舞台は、光沢を帯びた床や建物が建ち並ぶ一角、

惑星クレイの国家の1つ“ユナイテッド・サンクチュアリ”、


そのクランの1つ“ロイヤルパラディン”の本部付近。



「行きます。ドロー」

先攻は前言した通りアイチから。


「“ういんがる”にライド!」

グレード0のばーくがるが、グレード1の“ういんがる”に変わり、


「ばーくがるのスキル、リアにコールします」

ソウル(ヴァンガードの下)のばーくがるが、ういんがるの後衛右にコールされる。


「そして、ばーくがるのスキルで、デッキから“未来の騎士リュー”をコール」

そして後衛左にグレード0の、金髪の少年兵“リュー”が、相棒のハイドックを連れて現れる。



「・・・終了です」


アイチのターンは終わった。

アイチ、手札5枚、ダメージ0



『昨日と同じ?・・・何のつもり?』

アイチの考えが分からないまま、


「私のドロー」

ミサキはカードを引く。

加わったのは、ドロートリガーの“ミラクル・キッド”。


『トリガーが・・・まあ、どうでもいいか』

ファイトが終われば、もう彼らとは無関係、ただの店員と客になる。

そう言い聞かせ、ファイトを続ける。


「“サークル・メイガス”にライド!」

円形をデザインした法衣を纏う“サークル・メイガス”にライド。

「サークルの効果で、デッキの一番上を確認」

デッキトップを確認すると、

『トリガーじゃないっ』

バトルで必要なトリガーユニットではなかった。


「これはデッキの一番下に移す。そして、ロゼンジの効果で、このカードをリアにコール」

サークル・メイガスの真後ろに、ロゼンジがコールされた。


「“オラクルガーディアン ジェミニ”をコール」

子供の天使を模したロボット“ジェミニ”が、前衛右にコール。


「ジェミニで、ういんがるを攻撃!」


可愛らしいジェミニの顔が、縦に開き、内蔵されているビーム砲から閃光が放たれる。


「ダメージチェック」

アイチはそのままダメージを受け、デッキトップをめくった。

それはグレード2“真理の騎士ゴードン”、トリガーではない。


「ロゼンジのブースト、サークル・メイガスで攻撃!」

ロゼンジのパワーと効果で、サークルのパワーは7000から13000に上昇。

「トリガーチェック」

めくられたカードは、グレード1の“バトルシスター しょこら”。

『またトリガーじゃないっ・・・でもいいかっ』

パワーは十分ある。

2人分の魔力が篭った魔力球がういんがるに直撃する。
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