薄桜鬼-読み物-
□月夜(後編)
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おかえりなさい、と伝えた時の山崎さんの顔が頭から離れない。
部屋に入ってからずっと、山崎さんのことを考えている。
出た時は不安な気持ちだったのに不思議だ。
任務帰りで疲れてたにも関わらず私を慰めてくれた。
あまり会えない山崎さんに会えただけで嬉しかった。
「任務、帰りかぁ…」
なにかしてあげられることはないのだろうか。
「そうだ!!」
私は夕餉のご飯が珍しく残っていたことを思い出す。
おにぎりとお茶を持っていこう。
部屋から出るな、との言葉を忘れ私は勝手場へ向かった。
おにぎりとお茶をお盆にのせ、山崎さんの部屋へと向かう。
最後の角を曲がった時、目的の人物をが視界にはいる。
彼は縁側に座っていた。
月を見ているのだろう。
山崎さんの瞳はなにかを懐かしむような光を宿していた。
それでいて、眩しそうで手の届かないなにかを見ているようだった。
私は月明かりに照らされる山崎さんに見惚れその場から動けなかった。
彼の空間に立ち入って邪魔をしてはいけないような気もする。
「雪村君!??」
しばらく立ちつくしていた私の気配に気付き、山崎さんは驚いた視線を向けてくる。
「お茶とおにぎりをお持ちしたのですが…お邪魔してしまいましたか?」
「いや…
君は夜更けに出歩くなと言った俺の言葉を忘れたのか?」
彼の指摘に私は小さくなる。
それでも…
「お役に立ちたかったんです」
ご飯を食べずに働いていたのではないか、喉が乾いてるのではないかと考えたら居てもたっても居られなかった。
私は山崎さんの傍へ行き、お盆を置くと隣に座った。
「ありがとう」
お礼とともにおにぎりへ手をのばし、山崎さんはすべて食べてくれた。
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