薄桜鬼-読み物-

□月夜(後編)
2ページ/3ページ

「今日は本当に月が綺麗だな」


お茶を飲みながらふと山崎さんが呟いた。


「そうですね。ずっと月を見ていらしたんですか?」

「あぁ…随分と久しぶりに見た気がする」


二人で月を見上げた。
包み込むような柔らかい光を月は放っている。


「このような時間を過ごすのは何時ぶりだろうか。
まわりのものを愛でることなど忘れていた」

「たまには休憩も必要です。
立ち止まっても罰はあたりません」

「そうかもしれないな…」


お互い何も言わずただ月を見上げた。
ただ静かに時間が流れた。




「そろそろ寝た方が良い」


唐突に山崎さんが切り出した。
確かにもう随分と遅い時間だろう。
お互い明日の事を考えれば一刻も早く寝た方が良い。

ただ、この瞬間の終わりがとても寂しい。


「…そうですね」


名残惜しいが立ち上がる。
山崎さんも立ち、私の持ってきたお盆を手にのせている。


「私が片付けます」

「いや…部屋まで送ろう」


山崎さんは歩き出した。
私はただ彼の背を追った。



「今日はすまなかった。
これも、ありがとう」

「え?いえ…」


これ、といいお盆を軽く持ち上げる山崎さん。
お礼を言われるほどのことはできていない。


「だが、やはり夜更けに一人で出歩かないで欲しい」

「はい…」

「君が会いに来てくれて、共に過ごす時間は楽しい。
だが、一人の時になにかあっては大変だ」


山崎さんは歩みを止める。
私も止まり山崎さんをみつめた。


「そんなことになれば、俺は激しく後悔するだろう。
悔やんでも悔やみきれなくなる」

「それは…私を守ることが、任務だからですか?」

「…どうだろな」


意地悪な笑みを浮かべ、真意は教えてもらえなかった。



「ゆっくり休むと良い。
といっても、今からだとさほど眠れはしないが」


山崎さんは、ぽんっと私の頭に手を置き元来た方へ歩き出す。
…気付けばそこは私の部屋の前だった。



「おやすみなさい、山崎さん」



去る背中に小さく呟き、私は部屋へ入る。




月が綺麗な夜の出来事。

山崎さんとの距離が少しだけ近くなった気がした―――




END.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ