dream

□藤原雅
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Emergency Core Cooling System


――夢を見た。
遠い昔に見た夢だ。


 暗鬱とした気持ちで身体を起こす。
空が白んできた。もうすぐ夜明けのようだ。薄明かりがさす部屋は冷え冷えとしていてひどく静かだ。
 ここはまるで世界から切り取られたように、何者にも冒すことも出来ない、時間までもが止まっているような、そんな凜と張り詰めた空気に包まれていた。
 藤原雅は上体を起し、ひどく嘆くかのように両手で顔を覆う。しばらくそのままの状態で静止していたが、突如肩を震わせた。

「ふふ…」
 藤原雅は笑っていた。何もかもが満足だったからだ。
彼女がいる、この現実が。
雅は彼女をひどく愛していた。狂おしいほど、彼女を愛し、焦がれて、そして憎んでもいた。
そのうち雅は彼女を捕らえ、鎖に繋ぎ、鍵をかけた。
彼女は自分だけのものになった。

 あかねは部屋の冷たい鉄格子の中で静かな眠りについていた。華奢な肩が規則正しく上下する。ワイシャツの下からスラリと白い足が伸びていた。
その細い足首には、不釣合いな無骨な足枷が架せられていた。重々しい鎖が幾重にも、彼女が眠る白い大きなベッドに巻き付き、頑丈な錠前がつけられていた。
 此処へ来た頃の彼女は帰りたいと哀願し、一日中泣き続けていた。たまに彼女はあの男の名を呼ぶ。そんな夜は獣のように一晩中乱暴に凌辱した。泣き叫ぶ彼女があの男の名を口すれば頬を張り倒し、彼女が気を失っても犯し続けた。
 そうしてしばらく経たないうちに彼女はとても従順になった。
あの忌々しい名も口にしなくなった。



 雅はベッドから起き上がり、彼女に近付く。
「あかね…」
少し縺れた彼女の髪を手梳く。すると気配に気付いたのか、むずかる幼子のように
「ん…」
と甘い声を漏らす。たまらずそのままその滑らかな肌に手を伸す。彼女の柔らかな部分に指を這わすと彼女はまた微かな吐息を漏らす。
「あ…」
ぴくりと小さく痙攣するように身体を弓なりにし、そしてゆるゆると瞼を開ける。
「…雅先輩?」
あかねは眠たげだが、雅の顔を見ると嬉しそうに微笑みを浮かべた。
「起こしてしまいましたね」
すみません、と彼女の頭を愛しげに撫でる。
「いいよ」
自分の他愛ないいたずらに気付いてか知らずか、舌足らずな口調で無邪気に笑う。
「またする?」
そう言って子猫のように身体を擦り寄せる。
「……いや。今は、ただ」
細い身体を引き寄せ、彼女の胸に顔をうずめる。心地よい優しい香りが鼻をくすぐる。
「…ただこうして」

 藤原雅は幸せを感じる。確かに幸せを感じるのに、ただ時折、どうしようもない不安に襲われることがあった。
―――それは恐れ、または一つの予感。

「いや確信か…」
 腕の中で眠る彼女の甘やかな寝顔を見ながら雅は自嘲の笑いを浮かべる。
 それでも願うのは、ただ一つのぬくもり。
まどろみの中、雅は遠い昔に思いを馳せ、そうしてまた――夢をみる。




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