dream

□ヴァン
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非常階段、最上階で



「で、調子はどうなんだ?」
非常階段の手すりに寄り掛かりながら、ヴァン先生はニヤリと笑う。
ぼんやりと遠くの景色を眺めていた私は、ここぞとばかりに盛大なため息をついた。
「最悪です」
「ふーん?」
少し意外そうな声。それに重なるように、下の方から複数人の声がした。
目をやるとグラウンドでは野球部がお決まりの掛け声をかけながら、ランニングをしていた。

『いーち、それ、にー、それ……』

「……昨日なんか…そうですね…剣先輩が抱き付いてきて、幸輝先輩がそれを慌てて止めさせようとして、そしたら誤って出来上がったファイルを消去して、結局朔耶先輩に一喝されて、雅先輩はそれを楽しそうに見ていて、トドメに京先生がまた仕事を生徒会に丸投げして仕事が増える…そんな感じです」
ランニングする彼らを目で追いながら、ぼやく私にヴァン先生は
「ふーん」
と今度はどこか満足げにそう言った。


「…だいたい誰のせいで」
「まぁ何とかなるって、な?」
その楽天的な言葉に、思いっきり脱力する。はぁー、と手すりに額をあてた。
走り込みを終えた野球部員たちはストレッチ体操を始めていた。
突然にヴァン先生は、大きな手でわしゃわしゃと荒っぽく私の頭を撫でた。
すると何故だか急にどうしようもなく泣き出しそうになった。
「……セットが乱れます」
「可愛くねー」
ガハハと豪快に笑い、仕上げ、とばかりにポンと優しく頭を叩く。

「………なぁ」
「………」
「なぁお嬢さん、そろそろ機嫌直そうぜ」
「………」
「アイツら待ってたぞ」
急に抑揚のない声でそうボソリと呟く。だから私は、彼がどんな表情をしているか気になった。
ちらりと横を見るとヴァン先生は、ノック練習を始めた野球部をつまらなそうに眺めていた。何となく私も少しつまらない気持ちになった。




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