dream

□駿河幸輝
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かたはら


月明りの射さない暗い部屋の隅で私は一人膝を抱えてうずくまっている。床にはアルバムと写真の山が広がっていた。
喪失感とは不思議なものだ。あらゆる感情を吸い取ってしまう。孤独感、悲壮感、恐怖感、全てを奪い去り、空っぽになる。そうやって抜け殻のように、体を小さく丸くして、この狭い世界に閉じこもる。
全てを忘れ去りたかった。記憶も、彼も、自分すらも。ただ涙はいつまでたっても枯れなかった。


「あかね!!」
ハッと目が覚めた。そこには心配そうな表情の彼がいた。背中に冷たい汗がつたう。
「…大丈夫か?」
それには答えず私はギュッと裾を握り、彼の胸に顔をうずめた。
彼は少々驚いたようだが、黙ってぽんぽんと私をあやすように背中を叩いた。石鹸と体温のやわらかな匂いが私を包み込む。
そしてたっぷり10数えたくらいに
「…怖い夢でも見たか?」
と再び私に話しかける。
小さくうなずく私の頭を、そっか、と優しく撫でる。
「一人だったの…」
「うん」
「誰もいなくて、暗くて…」
「うん」
「……たぶん…寂しかった」
彼はもう一度、そっか、と小さく呟き
大きな腕で私を丸ごと抱き寄せた。
そんなことをしてもらうのは何だか久しぶりな気がした。いつだって彼は側にいたはずなのに。それでもそのあたたかな場所に私は身を任せる。胸がきゅんと痛む。


「じゃあ、おまじない教えてあげる」
彼は私の髪を指でくるくると弄びながら唐突にそんなことを言った。
「おまじない?」
「そ、怖い夢を見ないおまじない」
シーツの擦れる音がして彼は唇を私の耳元に近付けた。彼の吐息が肌をくすぐる。
そしてそっとその内容を囁く。
「……本当?嘘つかない?」
「うん、絶対」
「絶対ね」
「絶対、約束する」
それから悪戯っぽくクスリと笑うとそのまま私にキスをした。
「あかね…おやすみ」
「うん、おやすみなさい」
やわらかなシーツの感触とあたたかな彼の体温が私を優しい眠りへ誘う。
「幸輝…手?」
甘えたようにそう言った私の手を
はいはい、と困ったように笑いながら、でも少し照れたように握る。
私は安心して目を閉じ眠りについた。




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