dream

□藤原雅
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零れ桜


雅先輩が姿を消してからしばらくたつ。
生徒会の先輩たちは普段と変わらない様子で仕事に専念している。
それでも私は一人分減った空間が嫌に広く感じ、いるはずがないのにその空いている席を何度も見てしまう。
私は利用されていただけ、と言われた。
悲しかった。でもそれでもよかった。
だって雅先輩はとても優しかったから。


『じゃあ夢に現われるのですか?』
『そのように考えられていたようですよ』
先輩に教えてもらった話がふと蘇った。
夢に現われる人の話。
『ただ、逆の考えもあったようですよ』
『ええと…つまり自分が思う人か、自分を思う人か…』
ええですから、と雅先輩は私に微笑み
『互いに思えばきっと夢でも会えそうですね』と静かにそう言った。


いつの間にか私は校門に立っていた。
夜の学校は黒々とした口を開けじっと静かにこちらを見ていた。
たぶん校庭なんだろうな、と
何となくそう思いそこに向かった。
恐怖は感じなかった。
ただ早く、早く、と足を速めた。


ああやっぱり、と私は安堵する。
校庭には桜が妖しく咲き誇っていた。

「姫野さん」

待ち焦がれた声が後ろで聞こえた。
涙が頬を伝う。溢れるものを見せまいと
「奇麗な桜ですね」
と振り向かずに明るく言った。
後ろからそっと抱き締められる。
「ただ一つ貴女に伝えたくて…」
二人の鼓動と体温が一つになっていく。
私は眠りにつくように目を閉じた。
「貴女を愛しています」

ざあっと桜が舞い散っていった。


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