dream

□龍崎京
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星合ひの空



確か星の綺麗な夜だった。
君は車の窓に額をあて流れゆく景色を物憂げに眺めていた。
何となく声をかけるのがはばかれて、ただ沈黙がなぜだか怖くて、俺はラジオをつけた。
車内にどこかで聴いたような、曲名の分らないクラシックが静かに流れる。

「前に…」
ふと君はぽつりと呟く。
「え?」
「あったことがある気がしたことってありませんか?初めてなのに…」
君は外を眺めたままで独り言のように俺に問い掛けた。
「デジャヴ…既視感ってやつ?」
「そう…でも…なんだか懐かしい感じのような…」
「あかねはあるの?」
しばらくの沈黙の後、君は
「質問を質問で返さないで下さい。先生」
とくすくすと笑ってそう言った。

「…思い出せないだけじゃないかな?」
「え?」
相変わらず外の景色を眺めていた君は少し驚いたようにこちらを見た。
遠くでネオンの光がちらりちらりと瞬くのが見える。
「さっきの既視感のこと…」
「………」
「きっと忘れてない。思い出せないだけだと思うよ……大切なことなら尚更ね」
「…何か矛盾してますよ、それ」
「んーやっぱり?」
「そう…でも…それも何となく…分かるような気もします」
とゆっくり目を閉じながら
「やっぱり人って…」
君はふつと言葉を区切る。そしてふぅ、と大きく、深呼吸するような、胸につかえているものを全て吐き出そうとするような、そんなため息をつき、
儚いですよね、と最後にそう寂しげに呟いた。



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