dream

□駿河幸輝
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劣情

初めは側にいるだけで良かった。
姫野が俺を頼りにしてくれることが
ただ純粋に嬉しかった。
姫野が笑顔だと俺も笑顔になった。
一緒にいるだけで楽しかった。
普通の"先輩"と"後輩"の関係。
初めはそうだったはずなのに。

君の思いが彼に伝わったって聞いた時
ぐらりと世界が歪んだ気がした。
君にとって彼は恋人で、俺はただの先輩。
相変わらず君と俺の関係は変わらない。
君はますます綺麗になっていった。
俺の心は真っ黒く染まる。

一歩踏み出せなかったのは
この関係が壊れるのが怖かったから。
何より傷付くのを恐れたから。
ただの先輩と後輩で満足だったはず。
そうやって自分に言い聞かせる。
それでも押さえ切れない
自分の中のどす黒いモノが蠢く。


姫野と二人きりの生徒会室。
このまま切り取られて誰もいない、
姫野と俺だけ世界になればいいのに…
そんなことを君を眺めながらふと思う。
今、相談に乗っているのは
君が俺を頼りにしているから。
本当はそんな話なんて聞きたくない。
吐き気がする。胸が痛い。
俺以外の男の名前なんて言わないで。
今すぐその口をキスでふさぎたい。
けど、こうすれば距離が近付く。
君はもっと俺を頼る。
たとえ手に入れることが出来なくても
絶対に失うことはない。
臆病な自分にとって都合の良い関係。


好きだよ、大好きだよあかね
だから俺をもっと頼って、求めて。
俺は優しいから君を甘やかしてあげる。
俺はそうやって泣く君を慰めてあげる。
そう、そしていつか──
俺無しじゃいられなくなればいい。



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