dream

□藤原雅
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同じ手


夜中に雨が降ったようだ。
外はまだ薄暗い。
少女は裸足のまま外に出る。
しっとりとした空気が心地よい。
あたりはシンとしている。
「雨…降るんだ、ここ」
ふと思い出したように少女は呟く。
ここに来てどのくらい経っただろうか。
それは昨日のことのようで、
もうずっと前のことのようでもある。
ううん、と少女はかぶりを振る。
そもそもここには時間の観念がない。
ここは二人きりの空間なのだから。
私と彼だけの。

「…あかね!!」
いつになく慌てた彼の声がした。
「雅…先輩?」顔を上げると
愛しい人が息を切らして立っていた。
美しいその顔は今にも泣き出しそうで
…まるで迷子の子供のようであった。
「黙っていなくなるな」
私の手を乱暴に引き前を歩きだす。
表情は見えない。先輩の手は震えていた。
それでも、はい…、と
小さく返事した声が聞えたのだろうか。
ふっと先輩の空気が和らぐ。
優しく私の手を握り直し二人並んで歩く。
ここには私と彼しかいない。
大丈夫、この思いはきっと伝わるだろう。
私も彼の手を握り返した。

「…ありがとう」

二人朝のやわらかな光の中を歩いていく。
この同じ手をつないで。


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