ペルソナAs

□面倒臭がり屋の方程式
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「お、俺っすか!?ってか、バンダナ呼ばないでくだ――」

「五秒以内に答えろよー。5、4、3……」

「――って、早ッ!?ち、ちょっ待っ――」

「2、1、0。はい、バンダナダメー。面倒だから、略してバンダメー」


 言葉だけを見れば、少々の悪戯っぽさを感じるのだろうが、やる気のない声でそう言われると、無頓着さしか感じない。

 それから、歯牙にもかけない様子で猛から眼を逸らす畑山先生。それに口を尖らせるのは猛しかいないだろう。


「ひ、酷いっすよ!ハタケ――畑山先生!」

「はいはい。面倒臭いからあと。んじゃ――錦屋」


 その瞬間、教室中に一斉に広がる沈黙。猛が黙ったせいか、僅かな音でさえも耳につくこの空間で、その時にスースーという音が響く。

 それはまさに寝息であった。猛が恐る恐るその方を見ると、誠が机に顔を伏せているのが彼には認識出来た。
 間もなく、猛はなんらかの言葉をかけようとするのだが、時既に遅しというところだろう。


「――にぃいしきやぁあああ」


 刹那、声と共に光線に似た一線が空間を走る。大層な表現をしたかもしれないが、山姥を彷彿とさせる声を発する畑山先生と、彼女が放つ黄色チョークの速度は計り知れない。
 依然として、畑山先生の顔に貼り付くのは無表情だが、その腕の動きこそは恐らく本気であろう。
 空をも切り裂かんとするサイドスローは、メジャーリーガーも顔負けに違いない。

 一方で、空間を走る黄色チョークは昼間の光に照らされ、雷鳴のような輝きを刹那に放つ。
 だが、全ては一点に回帰し、消え失せるのだ。

 直後。何者かが眼を見開く寸刻前のことだった。
 チョークが空間に大きな孤を描いたのだ。チョークが曲がり走る先で、誰がそのことを予測出来ただろうか。


「ぐぁああッ!」


 間もなく、ここは戦場かと思わせるリアルな叫びが響く。それとほぼ同時に、乾いた破裂音が猛の額より現われては消えていた。

 詰まる所、高速のチョークを食らった猛は、イス諸共倒れそうになっていたのだ。だが、持ち前の運動神経でなんとか態勢を保つ。
 額にジンジンと走る痛みに耐えながらも。
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