その他
□( ^ω^)生ける者死する運命のようです(2)
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時は等しく彼とそれ以外の世界を少しずつ動かし、その存在を刻み付けてゆく。それは、この厳戸台駅でも変わらない。
人々に聞き流された終電のアナウンスを彼、内藤ホライゾンは耳に執拗に響く音楽で人々と同じように掻き消しながら、彼はやおらに歩を進めてゆく。
( ω )
辺りには歩を急しむように進めて、駅から出て行く者が多く見受けられた。しかし、彼は駅から出た途端にゆっくりとその足を止めた。
それはまるで、故郷を懐かしむ者のように、彼は眼を瞑り、町と駅の間に引かれた境界線で佇む。
彼が何を思っていたのかは彼以外誰も知らないだろう。
耳に響く音楽の背景で響く、夜の町特有の静かな騒めきと、彼が自ら作り出した空虚な暗闇は彼しか視ていないのだから。
全ての時計は等しく、12時を指し示そうとしていた。
間もなく、彼は何を思ったのかその眼をゆっくりと開ける。
彼の瞳に映ったのは緑と褐色の一風変わった夜の世界。
そして、彼の耳に響くは沈黙。要するに、何も聞こえなかったのだった。
( ^ω^)(――なんだ?)
暗転した携帯音楽機の液晶画面を彼は訝しげに見つめると、やおらに顔を上げた。
彼は自分が眼を瞑る前の町の景色を鮮明には記憶してはいない。だが、そんな彼も何が見え、何が聞こえるべきかは分かっていた。
――それでも、その光景をすんなりと受け入れれる自分が不思議だった。
( ^ω^)(……電池切れなら仕方ない……か)
そう心の中で呟くと、彼は漸くその世界に足を踏み出す。
この世界で現在歩くのは彼しかいない。
いや、人が見当たらないのだ。
人の代わりに路上を散漫とするのは『直立する棺桶のようなオブジェ』だった。
しかし、彼は表情を少しも変えることなく、佇むオブジェたちの横を人込みの間を通るように歩を進める。
――その時、違和感は不思議と全く無かった。
( ^ω^)(厳戸台分寮……っと)
大きな鞄を肩にかける彼のその手には『月光館学園・学園案内』と書かれた一枚の紙が握られていた。
街灯は灯っていない。
信号機も何も。
しかし、それでも彼が紙に書かれた文面を確認できたのは、月明かりがあったからだった。
その月明かりは夜空の片面を支配してしまうほどの大きな月が躊躇いなく放つ。
――不気味な緑色の光だった。