ペルソナAs
□移ろいゆくその日常
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「ったく、お前は昔っからクールっつうか、なににも無関心っつうか――」
「眠いんだよ」
溜め息の延長線上で呟くように言う誠に対して、猛の口調は弾んでいた。
猛はふと背後へ目を通すと、ニヤリと口元を歪ませ、やおらに口を開く。
「――まあ、そんな性格がモテる理由の一つなんだろーな」
嫉ましさを感じない――ある意味で真っすぐな言葉に、誠は思わず背後を一瞥していた。
その時に、誠が発した言葉は彼自身もよく記憶はしていない。想いを伝えるには極めて端的な、ああやうんなどといった言葉は空返事と言うべきだろう。
詰まるところ、彼は猛が示唆していたことなどどうでもよかったのだ。
ただ、間もなく耳に響く幾つもの声に誠はあからさまに顔をしかめていた。
「ねえねえ!誠先輩もこっち向いたよ!」
「も、もしかして私たちの誰かが気になってたりするのかな?」
まさか、と言い表わすように、即座に吐かれた誠の故意的な溜め息も、案の定黄色い声に掻き消されてしまう。
また、長い溜め息の間ですくめられた肩は恐らく誠の心情を細やかに映し出していることだろう。
無論、それが他人――誠たちの背後で黄色い声をあげている女子四、五人にどのように映るかによるのだが。
すると、誠の背中がやけに優しい力で叩かれる。完全にお手上げな彼には、それが天使の差し伸べた手にも見えるだろうが、間もなく感じられたその意図に、誠はあぐねたように眼を落とすしかなかったのだ。
「やっぱ、モテる男は困るよなー」
「……どうでもいい」
気だるな声を上げる誠に対しても、猛の表情は揺らぐことを知らない。
歯を見せ、大きく笑う猛は、さながら小さな子供にも見えようが、その瞳には微かに大人っぽさというものが滲んでいる。