ペルソナAs
□零からの想起
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彼は夢を見ていた。
斥力と引力が共鳴し合い、かつて一つだったものが二つに引き裂かれてゆく切ない物語だった。
片割れを拒絶したのは彼だったのかも知れない。
器に波打ち、零れてゆく雫が散漫した光に瞬き、やがて虚空へと消えてゆく。時を刻むのは、悠久に続こうその一連の情景だった。
極めて客観的な眼差しでその情景を見つめる彼は、ほぼ平行に開いている目蓋を擦ろうと右手を上げようとした。
その時、何かが滑り落ちるように覚えるぬるりという生々しい感触が、彼の持ち上げた右手のひらに伝った。当の彼は訝しめに歪む瞳に感触の因果を映そうと、眼差しの向きをやおらに動かそうとする。
だが、空間を滑った目蓋には何も映らなかったのだ。眼差しが辿り着くまでの過程の中にでも、何も。
すると、彼の顔に不意に笑みが浮かべられる。時を共に、その口から小さな笑い声が零れだす。自らの体が消えているのに、その笑いからは怒りも憎しみも悲しみも微塵も滲んではいない。
恍惚に似た笑い声は吹聴に彼の想いを辺りにちりばめる鏤めるのだ。
しかし、それらも間もなく消え失せる。彼の存在と共に。
かつて見ていたあの雫が今の彼となっているのに、彼自身が気付くのは頑なに難しくはないだろう。気付いた時には、海原なものと同じようになだらかに打たれる波に揉まれて、白き空間でたゆたう光の中で彼はゆっくりと目を閉じていた。
永劫の眠りにつく前に、彼の瞳に移るのはあの『器』。
ある存在を形どったそれを、彼がその瞳や存在に焼け付けようとしても、彼は儚く消えてゆく――。