隣の若くんSeason1

□隣の若くん 窓の向こうは
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今夜は両親がいない
滝夜叉摩耶は一人でお留守番だ
夜のご飯は日吉の家で食べる予定なので
日吉のお家にお手伝いに行きたいと思った滝夜叉摩耶は
了解を得るため、日吉を探していた
もうホームルームが始まってしまうので
部活前に日吉を捕まえなければならなくなった


滝夜叉摩耶は失敗した、と思った
部室近くまで追いかけてきてしまったことを今さらに後悔した

跡部に出会ってしまったのだ
樺地と数人の女子生徒を引き連れて、部室に向かうところだったようだ
肝心の日吉は何処かで追い抜いてしまったのか、出会わなかった

「こ、こんにちは。跡部さん
 あの、若は…」
「こんなとこで何してんだ?」
後ろから日吉が声をかける
「あ、若、あのね、今日のお夕飯のことなんだけど…」
突然、携帯のバイブ音が話を遮るように響く
「あ、若ごめん、ちょっと待ってて」
と言われたが、日吉は待つつもりはないらしく
そのまま部室へ向かう
「あ、若のばかー」
完全無視の日吉
ため息を一つして滝夜叉摩耶は携帯に出る
「白石さん?
 うん、今学校終わったとこ
 白石さんは今から部活?うん、うん」

「いいのか?あんなことさせておいて」
「何のことですか?」
部室に向かいながら、跡部は日吉に問う
「お前より白石とかいうやつを優先させて、という意味だ」
「彼氏なんですから、いいんじゃないですか?」
日吉はいつもより少し低めの声で答える
「お前の女なんだろ?」
「違いますよ。何ですか女って」
日吉は跡部を抜いて、部室へ向かった




滝夜叉摩耶は日吉のお家に手伝いに行き
日吉の帰りを待つ
今日も遅くまで部活をしてきた日吉を玄関で迎える
バッグを持ってあげようとしたが、断られた
仕方がないのでご飯をよそい、テーブルに並べ、食事の支度をする
一緒にご飯を食べた後、少しだけ一緒にテレビを観た

誰もいない家に戻った滝夜叉摩耶はすべての部屋の電気をつけてみる
少し落ち着いたのか、お風呂に入る準備をする
いつもより少し早めに出た滝夜叉摩耶はココアを作りお部屋に戻る
あとはもう寝るだけなのだが、なかなか寝付けない
つっぱり棒を持ち、こつんこつんと向かいの窓を叩く

「若、下に誰かいるみたいなの、物音がするの」
すべての部屋の電気は点けたまま
それでも足りないらしく日吉に助けを求める
「気の所為だろ?早く寝ろ」
「怖くて眠れないの、若そっちにいってもいい?」
滝夜叉摩耶はもう泣きそうになっている
「子供じゃないんだから、留守番くらいしっかりやれ」
「それとこれとはちがうのよ」
どう違うんだと日吉は思う
思いっきり嫌な顔をしている

隣の家の電気がすべて点いているというおかしな状況に気付いた日吉母は
日吉の部屋に来て様子を伺う
「滝夜叉摩耶ちゃん大丈夫?若を行かせましょうか?」
自分の母親に対しこれまでにないほど酷く嫌な顔を見せる日吉を無視し
日吉母はさっさと行きなさいと目配せをする
拒否することは許されない
日吉は今までの経験で悟っている
この顔をした母親には何を言っても無駄だ

「私下にお布団敷いてくる」
パタパタと下に降りお客様用の布団を引っ張り出す


嫌々やってきた日吉の目に入ったのは
二組並んで敷かれた布団だった
何もこんなに近くに敷かなくても、という程
並んだ布団に隙間はない
なんだかなぁと思う日吉

「ちゃんと干してあるから平気よ?」
ずれたことを言う滝夜叉摩耶に
やはり経験上何を言っても無駄なことは分かっているので
もう、どうにでもなれと自棄になって布団にはいる
これ以上嫌なことが起きる前にさっさと寝たい

枕元に置いてあった滝夜叉摩耶のケータイが鳴る
「もしもし、白石くんどうしたの?」
『今日はひとりなんやろ?平気やったか?』
「全然平気よ」
「どこが平気なんだよ」
今しがた怖くて自分を呼んだのは誰なんだと日吉は思う
「うるさいの」
「はいはい、すみませんね
 平気なら俺は帰らせてもらいます」
「だめっ」
『え?誰と話しとるん?犬?』
「え?うふふ、若犬だって!やーい、若の犬ー」
「夜中なんだ静かにしろ」
『あ、また日吉くんと話ししとったん?早う窓閉めんと、風邪ひくで』
「?うん、ありがとう」
『もう、寝るとこやったん?』
「うん、今お布団に入ったとこだよ」
『(え?布団入ったまんま日吉と話しとったん??)
 そか、ほなはよ寝んとお肌に悪いで』
「うふふ、白石くんて面白いこというね!
 おやすみ」
『ああ、おやすみ』

こいつ、どうゆう神経してんだ?
彼氏と電話しながら、他の男の隣で寝るって…
分かってないんだろうな、今の状況

はぁ、とため息をつく日吉に
まだ怒っているのかと滝夜叉摩耶は不安になる
「若、ごめんね
 こっちまで来てもらっちゃって、
 枕違うけど眠れる?」
「俺はそんなに神経質じゃない
 大体、今さら謝ってもどうしようもないだろ?
 俺は明日も早いんだ、寝かせろ」
「うん、おやすみ」
ぱちりと電気を消す


静まりかえった部屋の中で
滝夜叉摩耶の寝息が聞こえる

寝顔はもう毎晩、毎朝のようにみているが
寝息を聞くのは初めてだった
すぴすぴ鼻が鳴って、動物みたいだと日吉は思う


横を向き、胎児のように丸くなって眠る滝夜叉摩耶
何をそんなに寂しがることがあるのだろう
この姿をみるたびにそう思う
まぁ、朝になれば手も足もだらしなく伸びて、大きくなって寝ているのだけど


眠りに堕ちる瞬間は怖いのだろうか?
拭い去れぬ孤独があるのだろうか?

こんなにもたくさんの人に愛されて、
それでも寂しいだなんて贅沢な奴だ
今だって、俺が隣で寝ているのに


滝夜叉摩耶の寝息を聞いているうち、日吉も眠りに堕ちる







朝、起きたとき日吉は一瞬自分が何処にいるのか分からなかった
目の前に、滝夜叉摩耶の寝顔がある

ああ、そういえば、と昨夜のことを思い出す
自分の部屋に戻って、準備をしなければと起きだすと
滝夜叉摩耶を起こしてしまった

「ん〜?若?おはよう…」
ぐう、とまた寝てしまった
滝夜叉摩耶がいつも起きる時間よりも随分早いので仕方がないだろう

滝夜叉摩耶の髪を撫で、日吉は朝稽古へ向かう
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