隣の若くんSeason1

□隣の若くん
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PiPiPiPiPi……

「むー、」
朝の静寂を破るように響く携帯のアラーム
「んー?もうこんな時間?」
時刻は六時
朝稽古のある日吉はすでに道場へいっているのだろう
カーテンは開いているが部屋に人影はない
無頓着な滝夜叉摩耶はカーテンを引くつもりはさらさらないらしく
顔を洗って戻ってくるとそのまま着替えを始めた

シャツのボタンを留めていると
カーテンを引く音が聞こえた
窓の外を見ると日吉の部屋のカーテンが閉まっている
日吉が戻ってきたとみると
「若、おはよー」
自室の窓を開けて挨拶をする
「若、無視しないでよー」
コンコンと、つっつく
「着替えるとき位、カーテン閉めろっていってるだろ?」
カーテンの向こうから日吉のそっけない声が届く
「若、いなかったし」
「あのなぁ…」
抗議するためカーテンを開けた日吉の目に入ったのは
おなじみのつっぱり棒を手に、シャツ一枚で立つ滝夜叉摩耶だった
氷帝の基準服のシャツは決して長くはない
窓枠が腰までなのは幸いだが、日吉は一つ高いところにいるのだ
「ばっっ、着替えてから声をかけろッ」
「あ、ごめん」
カーテンを閉めてしまった日吉はもう行ってしまったのか
部屋はまた静まりかえっていた


氷帝学園につづく路をてくてくと歩く滝夜叉摩耶
今日はいつもより早い
理由は一つ
日吉に言われて今日は早めに登校したのだ
テニス部の朝練が終了するころには着いていたい
校門をくぐりテニスコートへ向かう
もう終わったであろうと思っていたが少々早かったようだ
コートにはまだちらほらと部員が残っていた
若の姿を探すがなかなか見つからない
まぁ終われば私を見つけてくれるだろう、と踵をかえすと
「おい」
声を掛けられた

ゆっくりと振り向くとそこには
氷帝学園テニス部部長であり、生徒会長の跡部景吾が立っていた
「ここで何をしている。ルールも守れないのか?」
氷帝テニス部にはファンが多く
練習を見に来る女子たちが相当の人数になる
部員たちの気が散って練習に支障をきたす恐れがあるとして
見学は午後の練習の間の二時間のみということになっている
跡部はそれを言っているのだろう

「すみません、跡部さん。練習はもう終わったと思っていたもので」
素直に謝る滝夜叉摩耶
滝夜叉摩耶は跡部さんが苦手なのだ
日吉が下剋上した後、跡部さんみたいになってしまったらどうしようと
密かに無駄な心配をしている程だ


「あぁ、よくみりゃお前日吉の女じゃねぇか」
まぁ人聞きの悪い
「滝夜叉摩耶です」
女じゃなくてちゃんとした名前があるんですよとばかりに
名前を言ったはいいが
これではまるで日吉の女として自己紹介したように聞こえてしまう
全くその事実に気がつかない滝夜叉摩耶は
「ところで、若は練習には出ていないんですか?」
と会話を進めてしまう
「あん?いるはずだぜ?ま、終わるまで待つんだな」
「はい、そうします」
というか初めからそうするつもりでいた
ペコリと頭を下げて立ち去る



若のやつ、自分から朝練の後に来いとか言っておいていないんだもの
失礼しちゃうわ

先に教室に行っちゃおうかな、と考えていると
日吉がくるのが見えた

「若、何処にいたの?私、跡部さんに見付かっちゃったんだから」
「あぁ、それは悪い事をしたな」
跡部のことが苦手と知っている日吉は
全く“悪かった”という顔をせずにそう言った
「それよりもほら、行くぞ」
「どこへ?」
「何でもするんだろ」
はっやっぱりそういうことか
あの幾日か前の教科書の件をもう忘れただろうと思っていたのに…
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