隣の若くんSeason2

□隣の若くん バレンタインビターキス
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滝夜叉摩耶の家は朝から甘い香りが漂っている
赤いチェックのエプロンを付けて
ちょこまかと動き回っている

滝夜叉摩耶は朝からチョコパイ作りに夢中だ
冷凍パイシートに生チョコ風のチョコレートをはさんだだけの
“手作り”パイらしい
むせ返るような甘い香りの中
お友達に配る用のパイをせっせと作っている

少し焦げてしまったものもあったが
今年は特別上手に作れた
一番上手くできたのは、白石用だ
ラッピングにもこだわり
少し、大人っぽく仕上げている

最近あまり白石と会えていなかった
白石も来年は高校生
いろいろと忙しいみたいだ
電話はしょっちゅうしていたが
やはり直接会ってお話するのとは違った
それはそれで楽しいのだが
やっぱり会いたい
久しぶりに、白石に会える
明日が楽しみだ
そっと、胸のネックレスにふれる



そして翌日
女の子たちは甘い香りをさせて登校
滝夜叉摩耶もその一人

休み時間になると
教室や廊下が賑わいだす
クラスの違うお友達や先輩たちに渡すためだ
滝夜叉摩耶もその一人で
いそいそと日吉のクラスへ向かう

家で渡せばよかったのだが
朝は日吉の方が早いし
早く渡したかった
帰りまでは待っていられない

次は移動教室だったのだろう
廊下を一人で歩く日吉を見つけた
滝夜叉摩耶は嬉しそうに駆け寄った

「若、はいこれ
 今年はチョコパイよ」

日吉は目も合わせず行ってしまった
「若?…わ…」
その背中はすべてを拒絶しているようで
声をかけてはいけないような雰囲気だった
滝夜叉摩耶はそれ以上何も言えず立ち尽くした

毎年無言で受け取ってくれていた
お礼を言うわけでも笑ってくれるわけでもなく
ただ無表情で
それでも受け取ってくれていた
でも今年は違った
受け取ってもらえなかったチョコを
滝夜叉摩耶はただ抱きしめることしかできない

滝夜叉摩耶は混乱した

放課後に白石のところへ行ったが
うわの空で白石に心配されてしまった

家に帰ってからも
行き場を失くしてしまった包みを見つめていた
日吉の部屋は、カーテンが閉まっている
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