隣の若くんSeason1

□隣の若くん
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コツン。コツン。
突っ張り棒を操り慣れた手つきで隣の窓を叩く

お隣さんの窓まで約120センチ
見た目はもっと近い
建っている地面の関係上少し高いところに位置しているそれを
懸命に叩く少女がひとり
名前は滝夜叉摩耶、黒髪の小柄な女の子だ

「若、若、大変なの」
「なんだ、煩いやつだな」

悪態を吐きながらも、ガラガラと窓を開けて返事をしてくれる
日吉若
生まれたときから、今日まで
まるで兄妹のように育ってきたお隣さんだ

「あのね、あのね
 明日漢字の小テストがあるの
 若のクラスは昨日だったでしょ?」
持っていたつっぱり棒を所定の位置、
窓の下に付けたフックに仕舞いながら用件を切り出す
「期待しても、そのときの先生の気まぐれで出題されるんだ
 俺に問題を聞いても同じものが出るとは限らない」
「違うの、そんなこと知ってるもん」
ぷうと頬を膨らませ唇をとがらせながら、睨みつける
「教科書、学校に忘れてきちゃったの
 若、貸して」
「はぁ?何で俺が?」

あからさまに嫌な顔をする日吉に、気にした風もなく続ける
「だって今からじゃあ取りにいけないもん。
 若が貸してくれなきゃ、明日零点よ。」
「それはご愁傷様、じゃあな」
意地悪く告げ、窓を閉めようとする日吉に
悲痛な声を上げる滝夜叉摩耶
「若ー、おねがい。何でもするから」
「何でも?」
途端に意地悪な目つきになる日吉に
嫌な予感を感じた滝夜叉摩耶は訂正する
「で、出来る限り」
「ほらよ」

バサッと念願の教科書が降ってくる
危ういところでキャッチした滝夜叉摩耶は複雑な顔で礼を言う
「あ、ありがとう若
 あの、何させるつもり?」
「それはまた考える」
今度こそ本当にピシャリッと窓を閉められた

ひとつため息を吐き、滝夜叉摩耶は机に向かい明日の為に奮闘する
滝夜叉摩耶の部屋のオレンジの光がぼんやり灯り
その明かりを斜め上から見下ろす日吉は机に向かいながら
何をさせてやろうかと笑いをかみ殺す
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