†ぬらりひょんの孫花園†

□桜吹雪に散りゆく毒羽
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「………く……ッ」

「ぅあぁ………っ!」




汗と涙を散らしながら、再び目の前が白く染まる。

同時に、鴆の熱いものが体の内に叩きつけられた。



「………は、は、はぁ………」

「……ッは、はぁっ、…っ、はぁ……ぁ、」



お互いに荒い呼吸をしながら、じっとお互いを見つめる。



しばらく瞬きもせずに見つめあって、呼吸も落ち着いてきたころ、不意に鴆が破顔した。




「………ッ」




そうして、リクオも不意に悟る。







―――――ああ、これが最期なのだ、と。







「……リクオ」

「……どうした、鴆」

「膝、貸してくんねぇかい」

「………ああ、いいぜ」



溢れそうになる感情を、懸命にやり過ごして、リクオは横になった鴆を見つめた。






―――――きっとこれが、最期だ。






「………俺は幸せもんだな」

「……何だい、急に」

「こんなこと、あんたにしてもらえるのぁ、俺くらいなもんだろう」

「………そうだな」




共に酒を飲み交わせるのも。



そのしなやかな肢体を暴くことを許されるのも。













こうして、最期の時を看取ってもらえるのも。













「俺ぁ、幸せもんだよ」




この世でたった一人、生涯かけて仕えると決めて。



この世でたった一人、心の底から愛した人。





その人の腕の中で逝けるなんて、どれだけの幸せだろう。





「………なぁ、リクオ」

「………ん?」

「………おめぇは、そのままでいろよ?」



自分の愛した、リクオのままで。







そう、たとえ自分がいなくなったとしても。







「……なんて顔してやがんでぇ……」

「……………ッ」

「おめぇに、そんな顔は似合いやしねぇ」



いつもの、堂々としたリクオでなければ。



「そう……それでいい」



無理矢理に不敵にほほ笑んで見せたリクオに、鴆は柔らかく微笑んだ。



「あの日から……俺たちはずっと一緒だ」

「ああ……」

「ずっと………一緒だろ?」

「……たりめぇよ……ずっとな……」






俺は、あんたのところ以外どこにも行きやしねぇよ。










そう言って、微笑みながら静かに鴆は目を閉じた――――――








「………ッ」




ざぁっ、と、強い風が吹き抜けた。




リクオと、鴆の間を、桜の花びらがすり抜けていく。





「鴆―――――?」






はっ、と顔を上げれば、咲いていた桜が、全て散っていた。











「―――――――――――――――ッッッ!!!!!」











もう、堪え切れなかった。




声を上げることすら出来ずに、リクオはただ、涙を流した。




微笑んだまま永遠(とわ)の眠りについた、愛する人の、冷たくなっていく体を抱きしめて。








そうして、ひとしきり泣いた後、彼は静かに盃を傾けた。






















「―――――一人で呑む酒ほど、不味いもんはねぇな」



愛して、愛して、愛したが故に、せめて看取るよりは、連れて行って欲しかった。
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