†ぬらりひょんの孫花園†
□ずっと、キミの、隣で。
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掴んだ腕も、
未来の闇も、
キミのとなり、と
願った
正式に契りを交わしてから、ずっと。
鴆はずっとずっと、鴆なりのやり方で、リクオのことを支え続けてきた。
「長いな………」
リクオが生まれた時から数えると、もうずいぶんと経つ。
一人縁側で、完全に人払いをして、鴆は酒を煽っていた。
「………ぐっ、ごほ、ごほ……っ」
咳をすれば、手のひらに己の紅い液体がべっとりと付いた。
「……ふ………」
この手で薬を作って来たのももう数え切れるほどではないけれど。
愛しい彼の体を組み敷き、その身に愛撫を施して。
啼き喘がせて、善がらせてやったことももう数え切れないほどだ。
『あ……・ぁ、ぜ……ん………!鴆……っ!』
この背に爪を立て。
白い喉をさらけ出して。
普段の低音もクールさも、理性すらも何処かに飛ばして甘い嬌声を上げるリクオは。
「……死ぬまで、俺のもんだ」
百鬼を従え、時には人の子までをもその背の後にかばうという彼は、閏の内、情事の時のみ、鴆だけのものだった。
『んぁ……っ、ぜ……あぁあっ!』
『リクオ……』
『ん、あ、お前……っ』
『ん……?』
『何、考えてやがる……?』
それは、責める響きではなく。
『何でもねぇよ』
『嘘、だ………っあ…あ!』
『気にすんな、ただ―――――』
百鬼の主とその配下、ではなく、唯一ただの鴆とリクオで居られる、この瞬間。
このときだけは、リクオは自分だけのもの。
(それが、嬉しいと思っただけさ―――)
しばし懐かしい思い出にふけって、鴆は目を閉じる。
「……おめぇんとこの桜は、いつも綺麗だな」
『あぁ、そうだな……』
自分の中の記憶に刻まれた声が、鴆の瞳の裏で、鴆に応えた。
「もう………見れねぇんだろうな」
『………』
微かに、気配が動揺を見せた。
「なぁ、リクオ」
『……何だ、鴆』
「この桜は……いつまで咲く?」
『………さぁなァ』
皮肉なものだ、と思う。
この桜は、先代も、先々代の死も、看取ってきた。
そして今度は、自分の―――――
「ふ………」
ふと、わずかに一瞬、先代と先々代が、桜の木の上で、酒を楽しんでいるのが見えた。
「………また、呑みにくりゃいいか……」
この美しい桜を、愛でながら。
盃を置いて、鴆は瞳を閉じたまま、そっと呟いた。
「俺は―――――――」
ずっとずっと、キミの、隣で。
瞳、焼きつけた熱さ
忘れてても、覚えていて
掴んだ腕も、
未来の闇も、
キミのとなり、と
願った