†ぬらりひょんの孫花園†

□桜吹雪に散りゆく毒羽
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その日の夜は、珍しく鴆が急に体を求めてきた。



「………あ……っ、あ、っふ……鴆……!」

「………は……」



見事に咲き誇った枝垂れ桜の花びらが、緩やかに、けれど確実に散っていく。



「あ…っ、ん……ぅあ………っ!」

「………リクオ」

「はっ、あ……ぁ、ぜ、ん……!」

「………もっと」





もっと。



その声で。





俺の名前を、呼んでくれ。





「リクオ……っ」

「あ、あぁ……、……ッは……鴆……ぜ……ん……っ!」



切なげに呼ばれた刹那、勢いよく突き上げられて、リクオはその長く美しい髪を振り乱しながら、

白い喉を晒して果てた。



「まだ………足りねぇ……・っ」

「ん、んぅ………ッ」





噛みつくように口付けて。



欲情のまま、舌を絡め、その口腔を乱暴に犯して。




「んんぅ……っ!」




再び律動を再開してやれば、リクオが目の前で快感に眉を寄せた。




「あ、あ……ぜ……ん、鴆………っ!」

「……リクオ、リクオ……」




愛しい人が甘い声で己の名を呼ぶのに、鴆もまた、呼び返す。






リクオとは正反対の、切なげな声で。






リクオもそれに気づいている。



さっきから、いや最初から、鴆の声音にも、その表情にも、ほとんどといってもいいほど、欲の色がない。







掠れてくるほど、リクオに甘ったるい嬌声を上げることを強いて。




容赦なく快感を与え、悦がらせて、啼かせて。




リクオの乱れる様を視姦しながらも、なにゆえか、欲に染まらぬ瞳。






欲情をも凌駕する程の、感情。






「鴆っ、っあ……も……っと」

「………っ」



泣きそうな声でねだられ、鴆はぐっ、と唇をかみしめる。




そう、リクオは分かっていた。




何故、いつもはリクオの身体を慮ってくれるのに、今宵は全く容赦がないのか。



何故、鴆が唐突に身体を求めてきたのか。





何故、鴆がずっと、切なげな、苦しいような、表情をしているのか。






だからこそ、リクオは激しい鴆の行為にも、必死に応えた。











―――――失いたくない。











いつかは失うと分かっていても、叶わぬと分かっていても。








願わずには、居られない。






「はぁ…・…っ、鴆、鴆………ッ!あ……あぁ……ッ」

「・・・・・・リク、オ」

「なぁ………、鴆……っ!」

「……何、だ……?リクオ……」




気付いていた。



だから、手遅れにならないうちに。






「愛してる………っ!」


「・・・・・・・・ッ!!!」






普段の自分なら、ありえない言葉。



だって、でも、今、言っておかないと。











もう二度と、言えなくなってしまうだろうから。






愛。それは時に残酷に愛しき者を引き裂くもの。
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